犬・猫の脾臓腫瘤とは?良性・悪性の確率、血管肉腫、検査・治療・予後を獣医師が解説
作成:イース動物病院 院長 芹沢和也
犬や猫の脾臓に「しこり」が見つかったとき、まず知っておきたいこと
健康診断や超音波検査で、犬や猫の脾臓に「腫瘤」「しこり」「できもの」が見つかることがあります。このとき、多くの飼い主様が最初に心配されるのは「がんなのか」「手術が必要なのか」「どれくらい生きられるのか」という点です。
脾臓腫瘤で最も大切なことは、画像検査だけでは良性か悪性かを確定できないということです。犬では良性の脾臓病変も多く、研究によっては脾臓腫瘤全体の良性または非腫瘍性病変が約45〜72%と報告されています。一方で、脾臓腫瘤が破れてお腹の中に出血している場合は、悪性腫瘍、特に血管肉腫の可能性が高くなります。
猫では、脾臓疾患そのものは犬ほど多くありませんが、脾臓摘出が必要になるような症例では腫瘍性疾患の割合が高い傾向があります。2023年の猫62例の研究では、脾臓摘出症例の81%が脾臓腫瘍で、主な診断は肥満細胞腫と血管肉腫でした。
脾臓腫瘤は「見つかった状況」によって危険度が大きく変わります。無症状で偶然見つかった場合と、急に倒れて腹腔内出血を起こしている場合では、必要な検査や治療の緊急度が異なります。
犬の脾臓腫瘤は良性と悪性のどちらが多いのか
犬の脾臓腫瘤については、以前から「悪性が多い」と説明されることがありました。しかし、近年の研究では、すべての脾臓腫瘤を一律に悪性と考えるのではなく、偶発発見なのか、破裂して出血しているのかを分けて判断することが重要だと分かってきています。
| 犬の脾臓腫瘤の状況 | 良性・非腫瘍性の目安 | 悪性・腫瘍性の目安 | 説明のポイント |
| 健康診断などで偶然見つかった非破裂の腫瘤 | 良性が多い | 悪性もゼロではない | 2024年の研究では、偶発発見例の93.9%が良性でした。 |
| 脾臓腫瘤全体 | 約45〜72% | 約28〜55% | 対象となる病院や症例の重症度で幅があります。 |
| 破裂して腹腔内出血を起こした腫瘤 | 約35〜40% | 約60〜64% | 2025年の345例研究では、悪性64.3%、血管肉腫56.2%でした。 |
この表から分かるように、犬の脾臓腫瘤は「見つかったからすぐにすべてが末期がん」というわけではありません。ただし、破裂して出血している場合には命に関わる救急疾患となり、同時に血管肉腫の可能性も高くなります。そのため、脾臓腫瘤では楽観しすぎず、悲観しすぎず、検査結果と全身状態をもとに判断することが大切です。
猫の脾臓腫瘤は犬と同じように考えてよいのか
猫の脾臓腫瘤は、犬とは少し考え方が異なります。猫で脾臓摘出が必要になるような病変では、腫瘍性疾患の割合が高く、2023年の研究では62例中50例、つまり81%が脾臓腫瘍でした。内訳は肥満細胞腫42%、血管肉腫40%、リンパ腫6%、組織球性肉腫6%でした。
| 猫の脾臓病変 | 頻度・傾向 | 予後の考え方 |
| 肥満細胞腫 | 脾摘症例で重要な腫瘍 | 脾臓摘出後に比較的長く維持できることがあります。 |
| 血管肉腫 | 猫でも重要な悪性腫瘍 | 進行が速く、予後は厳しい傾向があります。 |
| リンパ腫 | 脾臓だけでなく全身病として出ることがあります | 全身評価と内科治療の検討が必要です。 |
| 非腫瘍性病変 | 犬より少ない傾向 | 病理診断後は比較的良好な経過も期待されます。 |
猫では、血腹、貧血、転移がある場合に予後が悪くなることが報告されています。特に2023年の研究では、自然発生の血腹を伴った猫15例は全例が腫瘍性疾患でした。
脾臓腫瘤でみられる症状
脾臓腫瘤は、初期には症状がほとんど出ないことがあります。そのため、健康診断や別の病気の検査中に偶然見つかることがあります。一方で、腫瘤が大きくなる、出血する、破裂する、悪性腫瘍として全身に影響する場合には、明らかな体調変化が出ます。
| 症状・サイン | 考えられる状態 | 受診の目安 |
| 急に倒れる、ふらつく、立てない | 腹腔内出血、急性貧血、ショック | すぐに受診が必要です。 |
| 歯ぐきが白い、呼吸が速い | 貧血や循環不全 | 早急な検査が必要です。 |
| お腹が張っている | 腫瘤の大型化、腹水、血腹 | 当日中の受診をおすすめします。 |
| 食欲が落ちる、元気がない | 腫瘍、慢性出血、炎症、他の全身病 | 数日続く場合は検査が必要です。 |
| 体重が減る | 慢性疾患や腫瘍性疾患 | 早めの相談をおすすめします。 |
犬や猫が急に倒れた場合、脾臓腫瘤からの出血だけでなく、心臓病、低血糖、神経疾患、中毒なども鑑別に入ります。そのため、ご自宅で様子を見すぎず、できるだけ早く動物病院で全身状態を確認することが重要です。
脾臓腫瘤の検査では何を調べるのか
脾臓腫瘤の検査では、まず命に関わる出血が起きていないかを確認します。血液検査では貧血、血小板減少、炎症、肝臓や腎臓の状態、麻酔リスクを評価します。腹部超音波検査では、腫瘤の大きさ、数、内部構造、腹腔内出血、肝臓やリンパ節への転移疑いを確認します。
胸部レントゲンは、肺転移や他の臓器病変を調べるために行います。ただし、画像検査で「悪性らしい」「良性らしい」と推測できることはあっても、最終診断は多くの場合、摘出した脾臓の病理組織検査で決まります。
| 検査 | 分かること | 限界 |
| 血液検査 | 貧血、血小板、炎症、臓器機能、手術リスク | 腫瘤の種類は確定できません。 |
| 腹部超音波検査 | 腫瘤の有無、出血、腹水、肝臓やリンパ節の異常 | 良性・悪性の確定はできません。 |
| 胸部レントゲン | 肺転移や全身の広がり | 小さな転移は見つからないことがあります。 |
| 細胞診 | 肥満細胞腫やリンパ腫の推定に役立つことがあります | 血管肉腫では診断できないことがあります。 |
| 病理組織検査 | 最終診断、腫瘍の種類 | 多くは手術後に結果が分かります。 |
犬の脾臓細胞診では、腫瘍を検出する感度が64.29%、特異度が95.45%と報告されています。つまり、細胞診で腫瘍細胞が出れば強く疑えますが、陰性だからといって腫瘍を完全に否定することはできません。
治療は手術が必要なのか
治療方針は、出血しているか、全身状態が安定しているか、転移が疑われるか、年齢や持病、麻酔リスク、飼い主様のご希望によって変わります。
腹腔内出血がある場合
脾臓腫瘤が破裂して腹腔内出血を起こしている場合は、救急疾患として対応します。輸液、酸素、鎮痛、輸血などで状態を安定させながら、手術が可能かどうかを判断します。手術の主な目的は、出血源である脾臓を摘出し、病理検査で診断を確定することです。
重要なのは、破裂している脾臓腫瘤でも良性が一定数あるという点です。2025年の345例研究では、破裂性脾臓腫瘍の35.7%が良性でした。 そのため、「破裂しているから必ず悪性」「手術しても意味がない」と決めつけることはできません。
出血していない場合
出血していない脾臓腫瘤では、緊急手術ではなく、計画的な検査と治療方針の相談を行えることがあります。腫瘤が大きい、増大している、内部に出血を疑う、血液検査で貧血がある、悪性を疑う所見がある場合には、破裂する前の計画的な脾臓摘出を検討します。
一方で、高齢で麻酔リスクが高い、腫瘤が小さく偶然見つかった、全身状態が安定している場合には、短期間で再検査を行い、増大傾向や出血兆候を確認する選択肢もあります。どちらが適切かは、検査結果とその子の生活の質を総合して判断します。
予後はどれくらいか
脾臓腫瘤の予後は、良性か悪性か、破裂の有無、転移の有無、貧血の程度、術後治療が可能かによって大きく変わります。
犬で良性の結節性過形成や血腫であれば、脾臓摘出後に長期的に元気に過ごせることが多くあります。一方、犬の脾臓血管肉腫では、手術が成功しても微小転移がすでに存在していることが多く、手術単独の中央生存期間は約1〜3か月と報告されています。ドキソルビシンを中心とした術後化学療法により、研究によっては生存期間の延長が報告されています。
| 診断・状況 | 予後の目安 | 説明 |
| 犬の良性脾臓病変 | 良好なことが多い | 出血や術後合併症を乗り越えれば長期生存が期待できます。 |
| 犬の脾臓血管肉腫、手術のみ | 約1〜3か月 | 再発・転移が早い腫瘍です。 |
| 犬の脾臓血管肉腫、手術+化学療法 | 約4〜9か月程度の報告 | 根治は難しいものの、延命を期待して提案します。 |
| 猫の非腫瘍性病変 | 715日という報告 | 背景疾患がなければ比較的良好です。 |
| 猫の脾臓肥満細胞腫 | 348日という報告 | 脾摘後に比較的長く維持できることがあります。 |
| 猫の脾臓血管肉腫 | 94日という報告 | 悪性度が高く、慎重な見通しが必要です。 |
猫では、2023年の研究で、脾臓腫瘍全体の中央生存期間は136日、肥満細胞腫は348日、血管肉腫は94日でした。また、貧血と転移は独立した不良予後因子とされています。
イース動物病院で大切にしている判断の流れ
脾臓腫瘤は、飼い主様にとって非常に不安の大きい病気です。だからこそ、イース動物病院では「脾臓に腫瘤がある」という一点だけで結論を急がず、緊急性、悪性の可能性、手術リスク、生活の質を分けて整理します。
| 判断項目 | 確認する内容 | 治療方針への影響 |
| 緊急性 | 出血、ショック、急性貧血があるか | 緊急処置や手術の必要性を判断します。 |
| 悪性の可能性 | 破裂、転移、腫瘤の性状、血液検査 | 手術、細胞診、経過観察の選択に影響します。 |
| 手術リスク | 年齢、心臓病、腎臓病、貧血、凝固異常 | 麻酔前検査や輸血準備を検討します。 |
| 生活の質 | 食欲、痛み、元気、通院負担 | 積極治療と緩和治療のバランスを考えます。 |
脾臓腫瘤の治療には、正解が一つしかないわけではありません。手術で診断と治療を目指す選択、化学療法を組み合わせる選択、全身状態を考えて緩和治療を優先する選択など、その子に合った方針を一緒に検討することが大切です。
こんな症状があれば早めにご相談ください
犬や猫が急に倒れた、ふらつく、歯ぐきが白い、お腹が張っている、食欲や元気が急に落ちたという場合は、脾臓腫瘤からの出血を含めた救急疾患の可能性があります。また、健康診断で脾臓のしこりを指摘された場合も、症状がないからといって放置せず、腫瘤の大きさや増大傾向を確認することが大切です。
イース動物病院では、血液検査、画像検査、必要に応じた専門的検査を組み合わせ、飼い主様に分かりやすく状況を説明したうえで治療方針をご提案します。脾臓腫瘤を指摘された場合や、急な体調変化がある場合は、早めにご相談ください。
まとめ
犬の脾臓腫瘤は、良性と悪性のどちらもあり、特に偶発的に見つかった非破裂の腫瘤では良性が多いこともあります。一方で、破裂して腹腔内出血を起こしている場合は、悪性、特に血管肉腫の可能性が高くなります。猫では、脾臓摘出が必要になる症例で腫瘍性疾患の割合が高く、肥満細胞腫と血管肉腫が重要です。
脾臓腫瘤は、画像検査だけで良性・悪性を確定できないため、血液検査、超音波検査、胸部画像検査、必要に応じたCT検査や病理検査を組み合わせて判断します。大切なのは、腫瘤が見つかった時点で不安を抱え込まず、現在の危険度と今後の選択肢を整理することです。
