【大田区・大森の動物病院】犬と猫の蛋白漏出性腎症(PLN)を獣医師が徹底解説

はじめに

大田区・大森・蒲田エリアの飼い主の皆さま、こんにちは。イース動物病院 院長の芹沢和也です。今回は、犬や猫の腎臓病の中でも特に注意が必要な「蛋白漏出性腎症(Protein-Losing Nephropathy:PLN)」について解説いたします。

PLNは、本来なら体内に留まるべき大切なタンパク質が、腎臓のフィルター機能を担う「糸球体(しきゅうたい)」の異常によって尿中に大量に漏れ出てしまう疾患群の総称です。臨床現場では中高齢の犬で遭遇することが多く、猫でも発生します。初期は症状が乏しいため発見が遅れがちですが、進行すると腎不全や命に関わる血栓塞栓症(血管に血の塊が詰まる病態)を引き起こす恐れがあります 2

大森町・大森西・蒲田・池上・馬込・平和島・品川など、当院の診療圏では、健康診断の尿検査で「タンパク尿」を指摘され、ご不安を抱えてご来院される飼い主様が少なくありません。本記事では、最新の獣医学的エビデンス(EBVM:Evidence-Based Veterinary Medicine)に基づき、PLNの症状・診断プロセス・治療方針・予後について詳しくお伝えします。愛犬・愛猫の健康を守るための一助となれば幸いです。


1. 臨床兆候

PLNの症状は、尿中にタンパク質が漏れ出ることによる全身への影響と、それに伴う腎機能の低下によって引き起こされます。飼い主様が自宅で気づける初期症状から、進行時の重篤な症状まで、発症頻度の高い順に解説します 10

1-1. 早期に現れる症状

初期段階では、目立った症状がないことが多く、健康診断の尿検査で偶然発見されるケースも少なくありません。しかし、注意深く観察すると、何となく元気がない(嗜眠:いつもより動きたがらない、ぼーっとしている)、食欲が落ちているなどの漠然とした変化が見られることがあります。体重の緩やかな減少も早期から起こることがあり、「最近少し痩せてきた」と感じたら要注意です。

1-2. 進行に伴い現れる症状

タンパク質(特にアルブミン)が尿中に大量に失われると、血液中のタンパク質濃度が低下し(低アルブミン血症:血液中のアルブミンが2.5 g/dL以下になる状態)、血管内に水分を保てなくなります。その結果、お腹に水が溜まる(腹水)や、手足や顔がむくむ(浮腫)といった症状が現れます。また、腎機能が低下してくると、多飲多尿(水をたくさん飲み、尿をたくさんする)、嘔吐、食欲不振がより顕著になります 10

1-3. 緊急性の高い症状(すぐに受診すべきサイン)

PLNでは、血液を固まりにくくするタンパク質(アンチトロンビンⅢなど)も尿中に失われるため、血栓(血の塊)ができやすい状態(高凝固状態)になります 28。この状態が続くと、肺の血管に血栓が詰まる「肺血栓塞栓症」や、腹部大動脈に詰まる「大動脈血栓塞栓症」が起こることがあります。突然の呼吸困難(口を開けて息をする、腹式呼吸)や、後肢の麻痺・強い痛み・冷感が現れた場合は、命に関わる緊急事態です。直ちに大田区の動物病院へご連絡ください。

▼ 【図表①:臨床兆候の出現頻度】

臨床兆候出現頻度(%)飼い主が気づくポイント
元気消失・嗜眠約57〜65%いつもより寝ている時間が長い、散歩を嫌がる、動きが鈍い
食欲不振約40〜70%フードを残す、好物しか食べない、においを嗅いで離れる
高血圧(収縮期 >160 mmHg)約50〜80%飼い主様が直接気づくことは困難(眼底出血による急な視力低下で気づくことも)
体重減少約35〜50%食べているのに痩せてきた、背骨や腰骨が目立つようになった
多飲多尿約30〜50%水入れが空になるのが早い、尿の量が増えた、色が薄い
浮腫・腹水約20〜46%お腹が膨れてきた、足先や顔がむくんでいる
嘔吐約20〜40%食後や空腹時に吐く、泡や黄色い液を吐く
血栓塞栓症による症状約10〜30%突然の呼吸困難、突然の後ろ足の麻痺・冷感・強い痛み

※上記データは犬および猫の主要な論文報告(Klostermanら 2011、Sugarら 2024等)に基づきます 10


2. 鑑別疾患

PLNの診断において重要なのは、タンパク尿の原因が本当に腎臓(糸球体)にあるのか、それとも他の要因によるものなのかを見極めることです。タンパク尿は腎臓以外の問題でも発生するため、以下の疾患との鑑別(除外診断)が不可欠です 4

タンパク尿は大きく3つに分類されます。①糸球体前性(前腎性)タンパク尿:多発性骨髄腫などで大量の低分子タンパクが産生される場合、②腎性タンパク尿:糸球体・尿細管の障害によるもの(PLNはここに含まれます)、③糸球体後性(後腎性)タンパク尿:尿路や生殖器の炎症・出血によるものです 1

▼ 【図表②:主要な鑑別疾患の比較】

疾患名共通する症状本疾患との主な違い鑑別に有用な検査
尿路感染症(膀胱炎・腎盂腎炎)頻尿、血尿、タンパク尿炎症や出血によるタンパク尿(活性尿沈渣あり)、発熱を伴うことが多い尿沈渣(白血球・細菌の確認)、尿培養検査
尿石症(膀胱結石・尿道結石)頻尿、血尿、タンパク尿結石による粘膜への物理的刺激・出血が原因、UPCは通常 <2.0超音波検査、X線検査
生殖器疾患(前立腺炎・子宮蓄膿症)元気消失、発熱、タンパク尿生殖器からの分泌物や膿が尿に混入、全身の炎症反応が強い超音波検査、血液検査(炎症マーカー:CRP・白血球数)
機能性(生理的)タンパク尿一過性のタンパク尿激しい運動、発熱、けいれんなどに伴う一時的なもの、持続しない原因除去後の尿検査(2週間後に再検査し消失を確認)
慢性腎臓病(尿細管間質性疾患)多飲多尿、体重減少、嘔吐タンパク尿の程度がPLNと比較して軽度(UPC 2.0未満が多い)、腎臓の萎縮が顕著血液検査(SDMA・クレアチニン)、尿検査(UPC)、超音波検査
多発性骨髄腫(形質細胞腫)元気消失、体重減少、タンパク尿低分子のBence-Jones蛋白が尿中に漏れる(前腎性)、骨の溶解像あり血清タンパク電気泳動、X線検査(骨病変)、骨髄検査

※上記データはACVIMコンセンサスステートメントおよびLittman (2011)に基づきます 2


3. 検査と診断アプローチ

PLNの診断は、ACVIM(アメリカ獣医内科学会:American College of Veterinary Internal Medicine)のガイドラインに基づき、段階的かつ論理的に進められます 4。蒲田・大森町の動物病院である当院でも、この世界標準のアプローチに沿って診断を行っています。

▼ 【図表③:診断フローチャート】

【ステップ1】タンパク尿のスクリーニング
 尿ディップスティック検査(尿スティック)でタンパク尿を検出
 ↓
【ステップ2】腎臓以外の原因の除外
 尿沈渣検査・尿培養検査
 → 出血(血尿)や炎症(白血球尿・細菌尿)がある場合
    ↳ 尿路感染症・尿石症などの治療を優先し、2〜4週後に再検査
 → 活性尿沈渣なし → ステップ3へ
 ↓
【ステップ3】持続的な腎性タンパク尿の証明と定量(UPC測定)
 尿タンパク/クレアチニン比(UPC)を2週間以上の間隔で3回以上測定
 → 犬:UPC > 0.5 が持続 → 治療対象(介入を検討)
 → 猫:UPC > 0.4 が持続 → 治療対象
 → UPC > 2.0 → PLN(糸球体疾患)を強く疑い、精密検査へ
 ↓
【ステップ4】全身状態の評価と基礎疾患の探索
 血液検査(CBC・生化学)、血圧測定、感染症検査(フィラリア・ライム病・エーリキア等)
 X線検査(胸部・腹部)、超音波検査(腹部)
 ↓
【ステップ5】確定診断と病型分類(必要に応じて)
 腎生検(組織学的検査:光学顕微鏡・電子顕微鏡・免疫蛍光染色)
 → 免疫複合体性GN(ICGN)、アミロイドーシス、FSGSなどに分類

3-1. 身体検査のポイント

視診・触診・聴診にて、浮腫(むくみ)や腹水の有無、筋肉量の低下(体重減少)、眼底出血(高血圧のサイン)などを確認します。また、PLNを引き起こす原因となる感染症(皮膚病変・関節腫脹・リンパ節腫大)や腫瘍、免疫介在性疾患の兆候がないかも全身をくまなくチェックします。腎臓の触診では、通常は正常大か軽度の変化にとどまりますが、アミロイドーシスでは腎臓の腫大が触知されることがあります 2

3-2. 一次検査

■ 血液検査(CBC:全血球算定・生化学検査)

PLNによる全身への影響と腎機能の評価を行います。以下の所見が検出確率の高い順に認められます。

  • 低アルブミン血症(血清アルブミン < 2.5 g/dL):約60〜70%の症例で認められます。尿中への喪失が直接の原因です。アルブミンが 2.0 g/dL 以下になると浮腫や腹水が生じやすくなります 2
  • 高コレステロール血症(高脂血症):約40〜60%の症例で認められます。アルブミン低下に対する肝臓の代償的なタンパク合成亢進(リポタンパクも増加)が原因です 2
  • BUN・クレアチニンの上昇(窒素血症):約50〜70%の症例で認められ、腎機能の低下を示します。IRIS(国際腎臓病研究会:International Renal Interest Society)のステージ分類に基づいて進行度を評価します 8。また、早期の腎機能低下マーカーであるSDMA(対称性ジメチルアルギニン)も測定します。
  • 血小板数の増加(血小板増多症):高凝固状態の一因となります。
  • アンチトロンビンⅢ(AT-Ⅲ)の低下:尿中への喪失により凝固を抑制する機能が低下し、血栓塞栓症のリスクが高まります 28

■ X線(レントゲン)検査所見

主に基礎疾患(腫瘍・感染症など)の探索や、胸水・腹水の確認のために実施します。

推奨撮影体位と部位:右側臥位(右を下にした横向き)・左側臥位・腹背位(仰向け)での胸部および腹部撮影を行います。

正常との比較・特徴的な所見:PLN単独で腎臓のX線画像に特異的な変化が出ることは少ないですが、以下の点を確認します。

  • 腎臓の大きさ:正常では第2腰椎の長さの2.5〜3.5倍(犬)。急性の糸球体腎炎では腎臓が腫大することがあります。慢性化すると萎縮(小腎)が見られます。
  • 腹腔内の液体貯留(腹水):腹腔内の臓器の輪郭が不明瞭になり、「すりガラス状」に見えます。低アルブミン血症が重篤な場合(アルブミン < 1.5 g/dL)に出現しやすく、約20〜30%の症例で認められます。
  • 胸水:胸腔内に液体が貯留すると、肺野が白く見え(不透過性亢進)、心臓の輪郭が不明瞭になります。
  • 肺野の変化(肺血栓塞栓症の疑い):肺血栓塞栓症では、X線上は「正常に近い」ことが多く(感度が低い)、見落としに注意が必要です。肺動脈の拡張や局所的な肺野の透過性亢進(Westermark sign)が見られることがあります。

見落としやすいポイント:少量の胸水・腹水は見落とされやすいため、撮影体位を変えて確認することが重要です。また、肺血栓塞栓症はX線で診断が困難なため、臨床症状(急性の呼吸困難)と合わせて判断し、必要に応じてCT検査を検討します。

■ 超音波(エコー)検査所見

腎臓の内部構造を詳細に評価し、他の腎疾患(多発性嚢胞腎・腎盂腎炎・腎腫瘍など)を除外します。また、腹水・胸水の定量的評価にも優れています。

評価部位・プローブの当て方:仰向け(背腹位)または横向き(側臥位)で、左右の腎臓を長軸像(縦切り:腎臓の全体像を確認)および短軸像(横切り:皮質・髄質の厚さを測定)でスキャンします。8〜5 MHz のカーブドアレイ型プローブが一般的に使用されます 29

特徴的なエコー所見

  • 腎皮質の高エコー化(白く明るく見える部分が増える):約60%の症例で認められます。正常な腎皮質は肝臓や脾臓と同等かそれ以下の明るさ(等エコー〜低エコー)ですが、PLNでは腎皮質が肝臓・脾臓よりも白く(高エコー)描出されることが多く、腎実質のダメージ(線維化・炎症)を示唆します 29
  • 皮質髄質比(Corticomedullary Ratio)の増加(皮質肥厚):PLNの犬では正常な犬と比較して、腎皮質(外側の層)が相対的に厚くなる傾向が有意に認められます(p < 0.05)29。これは糸球体および尿細管間質の病変を反映していると考えられます。
  • 腎辺縁の不整:慢性化すると約30%で腎臓の表面が凸凹(不整)になります。
  • ドプラ所見(血流評価):カラードプラ法を用いて腎臓内の血流(弓状動脈・小葉間動脈)を確認します。PLNが進行すると、腎血管抵抗の上昇により血流信号が減少(低灌流)することがあります。また、腎静脈や後大静脈に血栓(エコー源性物質)がないかを慎重に評価します。
  • 腹水・胸水の確認:腹腔内・胸腔内に無エコー(真っ黒に見える)の液体貯留を認めます。

見落としやすいポイント:超音波所見だけではPLNの原因(免疫複合体性かアミロイドーシスか等)を特定することはできません 29。また、腎皮質の高エコー化は他の腎疾患(慢性腎臓病・腎盂腎炎など)でも認められるため、単独での診断には限界があります。

▼ 【図表④:各検査の主要所見サマリー】

検査の種類主要な所見出現頻度(%)臨床的意義
尿検査(UPC)UPC > 2.0 の持続100%(診断基準)糸球体性の重度なタンパク尿の証明(診断の要)
血液生化学検査低アルブミン血症(< 2.5 g/dL)約60〜70%尿中へのタンパク喪失を反映。浮腫・腹水・血栓リスクの指標
血液生化学検査高コレステロール血症約40〜60%低アルブミン血症に対する肝臓の代償性タンパク合成亢進
血液生化学検査BUN・クレアチニン上昇(窒素血症)約50〜70%腎機能低下の指標。IRISステージ分類に使用
血圧測定収縮期血圧 > 160 mmHg50〜80%腎臓の自己調節機能の破綻。更なる腎障害の進行因子
X線検査腹水・胸水(腹腔・胸腔の不透過性亢進)約20〜30%重度の低アルブミン血症による体腔内液体貯留
超音波検査腎皮質の高エコー・皮質髄質比増加約60%糸球体および尿細管間質の病変を示唆

※上記データは主要論文に基づきます 10

3-3. 二次検査・確定診断のための特殊検査

PLNの原因は、免疫の異常による「免疫複合体性糸球体腎炎(ICGN:Immune-Complex Glomerulonephritis)」(犬の約48〜51%)、異常なタンパク質が沈着する「アミロイドーシス」、その他の「限局性分節性糸球体硬化症(FSGS:Focal Segmental Glomerulosclerosis)」などに分類されます 7。これらを正確に区別し、最適な治療法を決定するためには、腎生検(腎臓の組織を一部採取して顕微鏡で調べる検査)が必要です 7

腎生検は超音波ガイド下で行う経皮的針生検が一般的です。全身麻酔下で行うためリスクを伴い、約20%の症例で軽微な合併症(血尿・血腫)が報告されています 11。特に重度の高血圧(収縮期血圧 > 180 mmHg)や凝固異常(血が止まりにくい)がある場合は禁忌となります。

組織標本は光学顕微鏡(H&E・PAS・マッソントリクローム・コンゴレッド染色)、電子顕微鏡(透過型電子顕微鏡:TEM)、免疫蛍光染色(IgG・IgM・IgA・C3の沈着を確認)の3つの方法で評価することが推奨されます 7

当院では、症例の状態や飼い主様のご希望を慎重に協議した上で、必要に応じて専門の二次診療施設(大学病院・専門動物病院など)へご紹介し、腎生検および高度な病理診断を依頼する体制を整えています。


4. 治療の提案

PLNの治療は、ACVIMのコンセンサスステートメントに基づく「標準治療(すべての症例に行う治療)」と、原因に合わせた「特異的治療(免疫抑制療法など)」を組み合わせて行います 5。イース動物病院では、最新のエビデンスを取り入れた治療プロトコルを提案しています。

4-1. 内科的治療(標準治療と特異的治療)

① RAAS阻害薬(タンパク尿を減らす薬)

腎臓の血管(輸出細動脈)を広げて糸球体内圧を下げ、タンパク質の漏出を減らします。ACE阻害薬(ベナゼプリル・エナラプリル)が標準的ですが 9、近年ではより強力な効果が期待できるアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB:テルミサルタン)の有効性が報告されており 33、当院でも積極的に導入しています。Lecavalierら(2021)の後ろ向き研究では、テルミサルタンを投与された犬の70%(1ヶ月後)〜80%(6ヶ月後)でUPCの半減または正常化(0.5未満)という良好な治療反応が得られたことが報告されています 30

② 抗血栓療法(血栓塞栓症の予防)

重度のタンパク尿(UPC > 2.0)や低アルブミン血症がある場合、血栓予防として抗血小板薬(クロピドグレルやアスピリン)を投与します 28。クロピドグレルは犬での有効性が確認されており、ACVIM標準治療として推奨されています。

③ 降圧療法

高血圧(収縮期血圧 > 160 mmHg)が持続する場合は、カルシウム拮抗薬(アムロジピン)などを追加し、血圧をコントロールします。目標血圧は収縮期 < 140 mmHg です 12

④ 免疫抑制療法(特異的治療)

腎生検で免疫複合体性糸球体腎炎(ICGN)と診断された場合、あるいは強く疑われる進行性の症例に対しては、免疫抑制薬を使用します。ミコフェノール酸モフェチル(MMF:免疫細胞の増殖を抑える薬)やシクロスポリン(T細胞の活性化を抑える薬)などが推奨されます 6

4-2. 外科的治療の適応

PLNに対する外科的治療は一般的ではありませんが、基礎疾患として腫瘍(腎臓腫瘍・副腎腫瘍など)や子宮蓄膿症が確認された場合は、外科的切除がPLNの改善につながることがあります。重症例や複雑な病態を持つ症例については、専門の二次診療施設へのご紹介を検討します。

4-3. 支持療法・補助療法(食事管理)

腎臓への負担を軽減するため、高品質で適度な制限を設けたタンパク質、低リン、低ナトリウムの腎臓病用療法食への変更が推奨されます。また、オメガ3脂肪酸(EPA/DHA)のサプリメントは、腎臓の炎症を抑える効果が期待できます 3。ただし、重度の低アルブミン血症がある場合は、タンパク質を過度に制限することで筋肉量がさらに低下するリスクがあるため、担当獣医師と相談の上で食事内容を決定することが重要です。

▼ 【図表⑤:推奨治療プロトコル】

治療の種類薬剤・処置名用量・用法の目安投与期間の目安エビデンスレベル
タンパク尿低減(第一選択)テルミサルタン(ARB)1.0 mg/kg/日 経口(初期0.5 mg/kgから開始)生涯(定期的な腎数値確認が必要)高(RCT:ランダム化比較試験、および後ろ向き研究あり)30
タンパク尿低減(代替・併用)ベナゼプリル(ACEi)0.5〜2.0 mg/kg/日 経口生涯高(ACVIM標準治療・RCTあり)3
血栓予防クロピドグレル1〜4 mg/kg/日 経口リスクが低下するまで継続中(ACVIM標準治療)3
降圧療法アムロジピン0.1〜0.5 mg/kg/日 経口生涯(血圧に応じて調整)高(ACVIM標準治療)3
免疫抑制療法(ICGN確定例)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)10〜15 mg/kg 1日2回 経口寛解まで継続し漸減中(ACVIM推奨)5
免疫抑制療法(代替)シクロスポリン5 mg/kg 1日2回 経口寛解まで継続し漸減中(ACVIM推奨)5
食事療法腎臓病用療法食+オメガ3脂肪酸処方食への切り替え+EPA/DHA補給生涯高(ACVIM標準治療)3

※実際の投与量は、個々の症状や血液検査の結果(クレアチニン・カリウム値など)に応じて細かく調整します。


5. 予後

PLNの予後は、基礎疾患の種類、診断時の進行度、そして治療への反応性によって大きく異なります。飼い主様が今後の見通しを具体的にイメージできるよう、最新の統計データに基づき詳しく解説します。

5-1. 治療反応性と生存期間

PLN全体の予後は決して楽観視できるものではありませんが、適切な治療により長期生存が可能なケースもあります。

最新の大規模な研究(犬649頭、腎生検確定診断例)によると、全PLN症例の中央生存期間(MST:Median Survival Time、半数の子が生存した期間)は608日(四分位範囲:109〜1475日)でした 27。しかし、病理分類によって生存期間には大きな差があります。

  • アミロイドーシス(80頭):MST 76日(四分位範囲:8〜299日)と極めて予後不良で、他の病型と比較して死亡リスクが1.79倍高いことが示されています(HR:ハザード比 1.79、95%CI:1.22〜2.65)27
  • 限局性分節性糸球体硬化症(FSGS)(138頭):MST 536日 27
  • 膜性糸球体腎炎(MGN):比較的予後が良好で、死亡リスクが低いことが報告されています 27
  • 猫のPLN(37頭):MST 424日(95%CI:0〜1098日)、短期生存率(30日)57%。治療によりタンパク尿の寛解(UPC 0.4以下または50%以上の減少)が得られた猫では、生存率が有意に向上しました(OR:オッズ比 3.3、95%CI:1.7〜6.5)26

5-2. 予後を左右する因子

治療に対する反応(UPCの低下)が良いほど、予後は良好になります。一方で、診断時にすでに重度の腎機能低下(窒素血症)がある場合は厳しい見通しとなります。以下に、論文データに基づいた予後因子をまとめます。

▼ 【図表⑥:予後因子の比較】

分類予後因子根拠となる論文・データ
良好な予後因子治療によるUPCの有意な低下(完全または部分寛解)Sugarら(2024):寛解達成で短期・長期生存率ともに有意に向上(OR 3.3、p<0.001)26
良好な予後因子診断時に窒素血症(クレアチニン上昇)がないLeesら(2005):非窒素血症例は腎機能維持の可能性が高く、長期生存が期待できる 1
良好な予後因子浮腫を伴うが窒素血症がない(猫)Sugarら(2024):浮腫での来院は治療反応性が良い傾向(OR 0.21、p=0.04)26
良好な予後因子免疫抑制薬・抗タンパク尿薬の投与が行われたSugarら(2024):治療群で短期生存率が有意に高い(90% vs 56%、OR 7.0)26
不良な予後因子診断時の血清クレアチニン高値(窒素血症)Schultzら(2025)、Sugarら(2024):死亡リスク増加(OR 1.3/mg/dL増加)26
不良な予後因子重度の低アルブミン血症(< 2.0 g/dL)Fortunaら(2024):血栓塞栓症のリスク増加に寄与(低アルブミン群で有意に多い)28
不良な予後因子腎生検での「アミロイドーシス」の診断Schultzら(2025):死亡リスクが最も高い(HR 1.79、95%CI:1.22〜2.65)27
不良な予後因子高齢(年齢の増加)Schultzら(2025):年齢の増加が死亡リスクと有意に関連 27
不良な予後因子高UPC比(タンパク尿の重症度)Schultzら(2025):UPCの増加が死亡リスクと有意に関連 27

5-3. 飼い主が自宅でできるケアとQOL(生活の質)の維持

PLNの管理には、ご家庭でのケアが欠かせません。以下の点に注意して、日常的に愛犬・愛猫の状態を観察してください。

食欲と体重のモニタリング:体重減少は筋肉量の低下(悪液質:体が消耗していく状態)を意味します。療法食を食べてくれない場合は、無理に制限するよりも「まずはカロリーを摂ること」を優先する場合があります。週1回の体重測定を習慣にしましょう。

呼吸状態の確認:安静時の呼吸数が1分間に30回を超える、あるいは苦しそうにしている場合は、肺血栓塞栓症や胸水貯留のサインかもしれません。すぐに大森西の動物病院へご連絡ください。

飲水量と尿量のチェック:脱水は腎臓へのダメージを加速させます。新鮮な水をいつでも飲める環境を整えてください。水を飲まない場合は、ウェットフードへの変更やウォーターファウンテン(流水式給水器)の導入も有効です。

定期的な通院:PLNは長期的な管理が必要な疾患です。当院では、病状に応じて1〜3ヶ月ごとの定期検査(血液検査・尿検査・血圧測定)を推奨しています。


まとめ・イース動物病院へのご相談

本記事の要点は以下の通りです。

  1. PLNは尿中に大量のタンパク質が漏れ出る疾患であり、放置すると腎不全や致死的な血栓塞栓症を引き起こします。
  2. 初期症状は乏しいため、定期的な尿検査(UPC測定)による早期発見が鍵となります。特に「尿タンパク陽性」を指摘された場合は、速やかに精密検査を受けてください。
  3. 診断には、血液検査・超音波検査に加え、確定診断と治療方針決定のための腎生検が推奨される場合があります。
  4. 治療はRAAS阻害薬(テルミサルタン等)、抗血栓薬、食事療法を基本とし、必要に応じて免疫抑制薬を使用します。
  5. 予後は病型により異なりますが、早期にタンパク尿をコントロール(寛解)できれば、長期的なQOLの維持が期待できます。アミロイドーシスは特に予後が厳しいため、早期診断が重要です。

🏥 イース動物病院(大田区大森西)へのご相談はお気軽に

大田区・大森・蒲田・品川・川崎エリアで愛犬・愛猫の体調でご不安なことがあれば、どうぞお気軽にイース動物病院へご相談ください。特に「尿の色が薄い」「最近痩せてきた」「健康診断で尿タンパクを指摘された」「お腹が膨れてきた」といった場合は、早期の精密検査をお勧めします。

当院は土曜・日曜・祝日も年中無休で診療しており、お仕事のある平日でも週末でも受診いただけます。大森町駅・蒲田駅・大森駅からのアクセスも便利ですので、大井町・馬込・西馬込・平和島・池上エリアの飼い主様もお気軽にご来院ください。

項目内容
病院名イース動物病院
院長芹沢和也
住所〒143-0015 東京都大田区大森西4-17-20
TEL03-3768-7606
診療日年中無休(土・日・祝日も診療)
アクセス①京急本線「大森町駅」より徒歩10分(商店街を抜け東邦医大通りを左折、「東邦大学前」交差点)
アクセス②JR「蒲田駅」よりバス約4分
アクセス③JR「大森駅」よりバス約12分

参考文献

主要論文(引用数上位)

[1] Lees GE et al. (2005) "Assessment and management of proteinuria in dogs and cats: 2004 ACVIM Forum Consensus Statement" J Vet Intern Med 19(3):377-385. DOI: 10.1892/0891-6640(2005)19[377:aamopi]2.0.co;2

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