【大田区・大森】猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)を獣医師が解説

執筆:イース動物病院 院長・獣医師 芹沢和也

重要な前提:FIPは、かつて「ほぼ致死的」と考えられていた病気ですが、現在は抗ウイルス治療によって治癒を目指せる病気へ大きく変わりました。一方、症状や検査値だけで一律に確定できる病気ではありません。診断は病歴、身体検査、血液検査、画像検査、体腔液・病変組織の検査を組み合わせ、治療反応も含めて総合的に判断します。

はじめに

大田区大森西のイース動物病院、院長の芹沢和也です。猫伝染性腹膜炎(FIP)は、若い猫で多い一方、どの年齢でも発症し得る重い全身性疾患です。大田区・大森・蒲田・池上・馬込・西馬込・平和島・品川・川崎など周辺地域の飼い主さまからも、「発熱が続く」「お腹が膨れてきた」「急に食べなくなった」といったご相談を受けます。本稿では、自宅で気づける兆候から診断、画像所見、最新の抗ウイルス治療、予後までを、国際ガイドラインと主要研究に基づいて整理します。早期に疑い、適切な検査と治療へつなげるための判断材料としてお役立てください。1 19 21

この記事で使う主な専門用語

用語飼い主向けの意味
FIP猫伝染性腹膜炎。全身に炎症を起こす重い病気
FCoV猫腸コロナウイルス。多くは腸管感染にとどまるが、FIP発症の背景となるウイルス
GS-441524FIP治療に用いられる抗ウイルス薬。ウイルスの遺伝情報の複製を妨げる
PCR遺伝子増幅検査。検体中の特定の遺伝情報を増幅して検出する方法
FeLV/FIV猫白血病ウイルス/猫免疫不全ウイルス。貧血、感染症、腫瘍などの原因・背景となるウイルス
PARRリンパ球の遺伝子配列を調べ、腫瘍性に同じ細胞が増えている可能性を評価する検査
NT-proBNP心筋にかかる負担を反映する血液指標。心不全の評価補助に用いる
CBC全血球算定。赤血球・白血球・血小板の数や形を調べる血液検査
PCV赤血球容積率。血液中で赤血球が占める割合を示す貧血の指標
A:G比アルブミン/グロブリン比。血中蛋白のバランスを表す値
FNA細針吸引。細い針で細胞を採取する検査
RT-PCR遺伝子増幅検査。検体中のウイルスRNA(遺伝情報)を増幅して検出する方法
MRI磁気共鳴画像検査。磁場を用いて脳・脊髄などを詳しく描出する検査
CSF脳脊髄液。脳と脊髄の周囲を満たす液体
RCT無作為化比較試験。治療群を無作為に割り付けて効果を比べる研究
MST生存期間中央値。対象の半数が生存している時点までの期間
ORオッズ比。ある因子と転帰の関連の強さを表す統計指標
PPV/NPV陽性的中率/陰性的中率。陽性・陰性結果が実際の病気の有無と一致する割合
POCUS診察室や救急現場で行う短時間のベッドサイド超音波検査
DV/VD背腹位/腹背位。X線撮影時に、背中側から腹側/腹側から背中側へ撮影する体位
PO/IV/SC経口投与/静脈内投与/皮下投与
AGP/SAA炎症に伴って増減する血中蛋白で、治療経過の追跡に用いる指標
LDH乳酸脱水素酵素。細胞障害などで上昇する血液検査項目
QOL生活の質。食欲、活動性、痛み、呼吸、日常生活の保たれ方
感度/特異度病気を正しく拾う割合/病気でないものを正しく陰性とする割合

1. 臨床兆候

FIPは、猫腸コロナウイルス(FCoV)感染を背景に、一部の猫でウイルスと宿主免疫の相互作用が変化し、全身性の血管炎(血管周囲の強い炎症)や化膿性肉芽腫性炎症(免疫細胞が集まるしこり状の炎症)を生じる病気です。従来は腹水・胸水を伴う「ウェット型」と、明瞭な体腔液を伴わない「ドライ型」に分けられてきましたが、実際には両者が重なり、経過中に病型が変わることもあります。1 5

1-1. 早期に現れる症状

初期には、食欲低下、元気消失、体重減少、成長期の子猫で体重が増えない、抗菌薬に十分反応しない発熱など、他の感染症や炎症性疾患でも起こる非特異的な症状が中心です。若齢猫、多頭飼育環境の出身、譲渡・手術・移動などのストレス後という背景は疑う材料になりますが、これだけで診断はできません。

飼い主さまが気づきやすい変化は、「寝ている時間が増えた」「遊ばない」「食べ始めるがすぐ離れる」「抱いたときに軽くなった」「毛づやが落ちた」などです。毎日の食事量と週1回程度の体重記録は、早期変化の把握に役立ちます。1 6

1-2. 進行に伴い現れる症状

体腔液を伴う場合は、腹水による腹囲膨満、胸水による呼吸数増加・呼吸困難が現れます。体腔液を伴わない場合は、病変の部位により、腹腔リンパ節や腸管の腫瘤、腎腫大、黄疸、ぶどう膜炎(眼内の炎症)、視力低下、ふらつき、眼振、けいれん、行動変化などがみられます。神経症状はFIP症例の最大約30%に報告されています。1 16

1-3. 緊急性の高い症状(すぐに受診すべきサイン)

口を開けて呼吸する、安静時呼吸数が持続して40回/分を超える、歯ぐきが白い・黄色い、意識がぼんやりする、立てない、けいれんが起きる、急に見えにくそうにする、24時間近くほとんど食べない場合は、当日中、呼吸困難やけいれんがある場合は直ちに受診してください。呼吸が苦しい猫を無理に仰向けにしたり、腹部を強く圧迫したりしないことが重要です。1

図表①:臨床兆候の出現頻度

臨床兆候出現頻度(%)飼い主が気づくポイント
食欲低下・食欲廃絶80%(超音波検査25例のコホート)食べる量が減る、匂いを嗅いで離れる
体腔液(腹水・胸水など)78%(224例)お腹が張る、呼吸が速い、胸を伏せた姿勢を続ける
元気消失56%(超音波検査25例のコホート)遊ばない、隠れる、移動を嫌がる
発熱56%(大規模症例研究)耳や体が熱い、元気・食欲が落ちる。体感だけでは判断不能
腹腔内腫瘤の触知41%(疑診例を含む研究)家庭での触診は困難。腹部の張りや痛がる様子に注意
神経症状最大約30%ふらつき、眼振、頭の傾き、けいれん、性格・反応の変化
黄疸頻度の一貫した報告なし白目、耳介内側、歯ぐきが黄色い
ぶどう膜炎・視覚異常頻度の一貫した報告なし瞳孔の左右差、目の濁り、虹彩色の変化、物にぶつかる

頻度は研究対象や病型により大きく変わり、異なる研究の数字を単純比較することはできません。特に食欲低下と元気消失の数値は画像診断施設に紹介された25例の研究に基づき、一般診療の全FIP症例をそのまま代表するとは限りません。1 29

1-4. 若齢発症と高齢発症の比較

FIPは若齢猫に多い病気です。確定例382例を扱った疫学研究では若齢猫が明らかに過剰代表されました。629例のGS-441524治療コホートでも平均年齢は1.1歳で、1歳未満が480例(76.31%)、1〜6歳が143例(22.73%)、6歳超は6例(0.95%)でした。ただし、FIPは高齢猫でも発症し得ます。古い資料では老齢期の小さな再増加が示唆されたことがありますが、近年の確定例研究は明瞭な二峰性年齢分布(若齢期と老齢期の二つの発症ピーク)を一貫して支持していません。20

比較項目若齢発症で重視する点高齢発症で重視する点
発症頻度典型的な年齢層で、特に1〜2歳未満では事前確率が上がる頻度は低いが、年齢だけで除外してはならない
背景多頭環境、保護・譲渡、移動、手術など最近のストレスを確認免疫老化、慢性疾患、免疫抑制治療歴、腫瘍の併存を確認
鑑別診断敗血症、先天性・感染性疾患、FeLV関連疾患などリンパ腫などの腫瘍、慢性腎臓病、肝胆道疾患、心疾患、甲状腺機能亢進症、糖尿病をより厳密に除外
検査値の解釈高グロブリン血症、低A:G比などを他所見と組み合わせやすい加齢性・慢性炎症性の変化でもグロブリンが上がるため、同じ所見の特異性が相対的に低くなり得る
治療病型、重症度、製剤、体重に基づき用量を決める年齢だけで減量せず、腎・肝機能、併用薬、脱水、栄養状態を踏まえて個別化
予後大規模治療研究では若齢群の生存が高い傾向629例研究では6歳超が低生存と関連したが、該当猫は6例のみで、年齢そのものの影響は確定できない

年齢別に異なる標準用量や、信頼できる高齢猫固有の治癒率は確立していません。高齢猫ではFIPの事前確率が低い分、治療反応だけで診断を固定せず、腫瘍や慢性疾患の採材・画像評価を並行することが重要です。一方、若いという理由だけで検査を省略することも避けます。1 20

2. 鑑別疾患

FIPの初期症状は非特異的であり、「FCoV抗体が陽性だからFIP」「PCRが陽性だからFIP」とは診断できません。FCoV抗体は過去または現在のFCoV曝露を示すもので、便PCRは主として腸管からのウイルス排泄を示します。これらをFIPの確定検査として扱うと、リンパ腫、細菌性腹膜炎、心疾患、肝胆道疾患、トキソプラズマ症などを見逃す危険があります。2 7

図表②:主要な鑑別疾患の比較

疾患名共通する症状FIPとの主な違い鑑別に有用な検査
リンパ腫体重減少、食欲低下、腹腔内腫瘤、胸腹水、眼・神経症状単一臓器または均一な腫瘤性病変が目立つことがあるが、画像のみでは重なる超音波ガイド下FNA(細針吸引)・生検、細胞診、病理、PARR(リンパ球が腫瘍性に単一増殖しているか調べる遺伝子検査)
敗血症性腹膜炎・膿胸発熱、元気消失、腹水・胸水、低血糖体腔液に変性好中球や細菌がみられ、FIP典型液より細胞数が多いことが多い体腔液細胞診、培養・感受性試験、血液培養、画像検査
うっ血性心不全胸水・腹水、呼吸困難心拡大、左房拡大、心雑音・奔馬調律、NT-proBNP(心筋への負荷を反映する血液指標)上昇が支持的心エコー、胸部X線、NT-proBNP、心電図
肝胆道疾患・胆管炎黄疸、発熱、食欲低下、腹水肝酵素・胆道系酵素上昇や胆嚢・胆管異常が主病変になりやすい腹部超音波、肝胆道系血液検査、胆汁培養、肝生検
トキソプラズマ症発熱、ぶどう膜炎、神経症状、呼吸器症状筋炎・肺炎を伴うことがあり、抗体価のペア血清やPCRを文脈に沿って評価血清IgM/IgG、ペア血清、PCR、眼科・神経検査
抗酸菌症・真菌症体重減少、リンパ節腫大、腸管・皮膚病変肉芽腫性炎症は共通するが、菌体検出・培養で区別細胞診、特殊染色、培養、PCR、病理組織
FeLV(猫白血病ウイルス)/FIV(猫免疫不全ウイルス)関連疾患発熱、貧血、体重減少、腫瘍・感染症ウイルス感染そのもの、または二次疾患が症状の主因FeLV抗原、FIV抗体、必要に応じPCR
蛋白漏出性腸症・腎症低アルブミン血症、腹水、体重減少FIPで多い高グロブリン血症が目立たず、腸・腎からの蛋白喪失所見が中心尿蛋白/クレアチニン比、便検査、腸管超音波、生検

特に体腔液がある猫では、まず液体を採取して外観、蛋白濃度、細胞数、細胞診、必要に応じPCRや免疫染色を評価することが、鑑別を大きく前進させます。1 8

3. 検査と診断アプローチ

FIP診断では、「一つの陽性結果」ではなく、事前確率(年齢・経歴・症状)を考え、別の病気を除外しながら、互いに独立した所見を積み上げることが重要です。体腔液があれば液体の採取が最優先で、体腔液がなければ画像で病変を探し、採取可能なリンパ節や臓器病変を標的にします。1 3

図表③:診断フローチャート

発熱・食欲低下・体重減少・腹囲膨満・呼吸異常・眼/神経症状
                         ↓
年齢、飼育歴、多頭環境、最近のストレス、既往歴を確認
                         ↓
身体検査+CBC+血液生化学+尿検査+FeLV/FIV検査
                         ↓
胸腹部POCUS/X線/精密超音波で体腔液と標的病変を検索
             ┌──────────────┴──────────────┐
             ↓                                             ↓
       体腔液あり                                    体腔液なし
             ↓                                             ↓
外観・蛋白・細胞数・細胞診                         リンパ節、腎、肝、腸、眼、CNSを評価
Rivalta試験(主に除外補助)                        超音波ガイド下FNA/生検を検討
FCoV RT-PCR・抗原検出を追加                         神経型はMRI+慎重なCSF検査を検討
             └──────────────┬──────────────┘
                            ↓
病理組織+病変内マクロファージのFCoV抗原免疫染色で確定
または、複数所見が整合し「FIPが非常に疑わしい」と判断
                            ↓
適法・品質管理された抗ウイルス治療を獣医師管理下で開始
48時間、2週、以後定期的に臨床反応・体重・検査値を再評価
                            ↓
反応不十分なら用量、吸収、服薬、製剤品質、鑑別疾患を再検討

3-1. 身体検査のポイント

視診では体格・脱水・黄疸・呼吸様式・眼の濁りや瞳孔不同を確認します。触診では腹水の波動、腎腫大、肝脾腫、腸管または腸間膜リンパ節の腫瘤、腹痛を評価します。聴診では胸水による心音・呼吸音の減弱、心疾患を示唆する雑音や奔馬調律を確認します。打診は猫では限定的ですが、胸水が多いと腹側胸郭で濁音が増すことがあります。

眼底検査と細隙灯検査では、前部ぶどう膜炎、角膜後面沈着物、網膜血管炎、脈絡網膜炎、網膜剝離を確認します。神経学的検査では意識状態、眼振、姿勢反応、歩様、脳神経、脊髄反射を評価し、病変部位を推定します。1 16

3-2. 一次検査

■ 血液検査(CBC:全血球算定・生化学検査)

CBCではリンパ球減少、好中球増加、左方移動(未成熟好中球の増加)、軽度から中等度の正球性正色素性貧血がよくみられます。231例の後ろ向き研究では、高グロブリン血症89.1%、A:G比0.8未満が約85%、0.6未満が67.8%、小球性赤血球35.1%、桿状核好中球増加44.3%でした。いずれもFIPに特異的ではありません。6

血液生化学では、高グロブリン血症、低〜正常アルブミン、低A:G比が重要です。A:G比0.4未満はFIPを強く疑う材料、0.8超は可能性を下げる材料ですが、単独で確定・除外はできません。高ビリルビン血症は22〜84%に報告され、溶血や著しい肝酵素上昇だけでは説明できないビリルビン上昇はFIPを疑う根拠になります。α1酸性糖蛋白(AGP)や血清アミロイドA(SAA)は炎症の強さと治療反応の評価に有用ですが、FIP特異的ではありません。1 17

■ X線(レントゲン)検査所見

推奨撮影体位と部位は、胸部で右側臥位・左側臥位・背腹位(DV)の3方向、腹部で右側臥位と腹背位(VD)を基本とします。ただし、呼吸困難の猫を仰向けにするVD撮影は危険なことがあるため、酸素化とストレス軽減を優先し、まず胸部POCUS(診察室や救急現場で行う短時間のベッドサイド超音波)やDV像のみで評価する場合があります。

正常な胸部では肺野は黒く、心臓・横隔膜・肺葉の輪郭が識別できます。胸水があると、肺葉が胸壁から中央へ後退し、葉間裂線、腹側肺野の均一な軟部組織濃度(骨より薄く、空気より白い濃度)上昇、心陰影・横隔膜輪郭の不鮮明化が生じます。大量胸水では肺葉が小さく丸みを帯び、心臓の輪郭がほぼ見えなくなることがあります。腹水があると、正常なら見える肝臓・腎臓・脾臓・腸管の輪郭がぼやける「漿膜ディテール低下(臓器同士の境界が不鮮明になる状態)」がみられます。

体腔液を伴わない、または少量の症例では、肝腫大により肝辺縁が丸みを帯びて胃軸が尾側へ変位する、腎腫大により腎陰影が大きくなる、脾腫や腹腔リンパ節腫大により局所的な軟部組織性腫瘤と腸管変位が生じることがあります。ただし、臓器の大きさ・形・辺縁の変化はリンパ腫、肝炎、腎炎などでもみられ、FIP固有ではありません。

X線画像では、胸水は“肺が胸壁から押し離され、胸の下側が白く曇る”ように、腹水は“腹部臓器の境界が全体に霧がかかったように見えにくくなる”所見として現れます。FIP症例全体では体腔液が78%に報告されていますが、これは臨床的な体腔液保有率であり、X線の検出感度ではありません。FIPに特異的なX線所見別の信頼できる出現頻度は確認できないため、本稿では「頻度確立なし」とします。少量液体、後腹膜液、若齢猫で正常にみられる低い腹部コントラストは見落としやすく、超音波を併用します。1

■ 超音波(エコー)検査所見

腹部超音波は、猫を仰向けまたは横向きに保定し、腹部を剃毛して、マイクロコンベックスプローブで全体を、必要に応じ高周波リニアプローブで腸管壁や表在病変を詳しく観察します。肝臓、胆嚢、脾臓、腎臓、腸管、腸間膜・腹腔リンパ節、腹膜、後腹膜腔、腹水を系統的に評価します。胸水は胸郭腹側から肋間走査し、心臓周囲や肺葉間の液体を確認します。

正常な実質臓器は比較的均一で、臓器境界と腸管壁の層構造が明瞭です。FIPでは、低エコー(暗く黒っぽく見える)の肝実質、腎被膜下の低エコー帯、丸みを帯びた低エコー性リンパ節、腸管壁の非対称性肥厚や層構造消失がみられます。一方、高エコー(白く明るく見える)の腸間膜、肝・腎・脾の小結節が現れることもあります。臓器辺縁は腫大に伴い丸くなったり、肉芽腫性結節により不整になったりします。体腔液は無エコー(黒く抜ける)から軽度エコー性(細かい白い点を含む)です。

25例の研究では、腹腔または後腹膜液88%、腹腔リンパ節腫大80%、肝異常80%、腸管異常68%、脾異常36%、腎異常32%、腸間膜異常28%、腹膜異常16%で、92%に2部位以上の異常がありました。肝異常の内訳は肝腫大58%、肝実質の低エコー化48%でした。体腔液は13/25例(52%)で無エコー、9/25例(36%)で軽度エコー性でした。これらは画像診断施設へ紹介された25例の小規模研究であり、一般のFIP猫すべての頻度として外挿はできません。29

カラードプラ(血流を色で表示する超音波機能)は、病変周囲の血管走行、臓器灌流、穿刺経路の安全性を確認するために用います。ただし、FIPに固有の血流増加・低下パターンや、その出現頻度は確立していません。見落としやすいのは、後腹膜の少量液体、腎被膜下の薄い低エコー帯、回盲結腸部の限局性病変、小さな腸間膜リンパ節病変です。リンパ腫や炎症性腸疾患でも類似所見を生じるため、超音波はFIPを単独確定する検査ではなく、安全な採材部位を決める「地図」として使います。10

図表④:各検査の主要所見サマリー

検査の種類主要な所見出現頻度(%)臨床的意義
CBCリンパ球減少、好中球増加、左方移動、軽〜中等度貧血桿状核好中球増加44.3%、小球性35.1%(231例)全身炎症と骨髄・慢性疾患の影響を評価。非特異的
血液生化学高グロブリン、低〜正常アルブミン、低A:G比、高ビリルビン高グロブリン89.1%、高ビリルビン22〜84%複数所見の組合せで疑いを高め、治療反応も追跡
体腔液検査黄褐色・粘稠、高蛋白、比較的低細胞数、化膿性肉芽腫性炎症体腔液自体は78%(224例)FIP疑診で最も情報量が多い採材。細菌・腫瘍との鑑別に重要
Rivalta試験陽性では滴がクラゲ状に残るNPV 93%、PPV 58%(有病率35%の集団)陰性は除外補助。陽性は敗血症やリンパ腫でも生じ、確定不可
X線検査胸水、腹水、臓器輪郭不明瞭、肺葉後退、肝・腎・脾腫大、腫瘤による腸管変位X線所見別の信頼できる頻度は確立なし体腔液と呼吸状態の評価。少量液体には感度が低い
超音波検査体腔液、リンパ節腫大、肝・腸・腎病変体腔液88%、リンパ節80%、肝80%(肝腫大58%、低エコー化48%)、腸68%(25例)微量液体と多臓器病変を検出し、FNA・生検を誘導
FCoV RT-PCR体腔液・組織でFCoV RNAを検出検体・病型で大きく変動陽性は支持的だが、ウイルス量・検体・臨床像と統合。血液・便単独は確定不可
病理+免疫染色血管周囲の化膿性肉芽腫性炎症と病変マクロファージ内FCoV抗原適切な病変採材時に最も確定的現時点の確定診断基準。侵襲性と採材誤差に注意

3-3. 二次検査・確定診断のための特殊検査

体腔液がある場合、外観、総蛋白、細胞数、細胞診に加え、FCoV RT-PCRやマクロファージ内FCoV抗原検出を検討します。Rivalta試験は安価ですが、陽性だけではFIPと確定できません。体腔液A:G比0.4未満は支持的、0.8超は否定的です。1

体腔液がない場合、超音波で異常なリンパ節、肝、腎、腸管を同定し、FNA(細針吸引)または生検を検討します。過去研究では肝FNA細胞診の感度82%、腎FNA42%でした。標的病変を狙えていない研究であり、超音波ガイド下で病変を正確に採取することが重要です。病理組織で典型病変を確認し、その病変内マクロファージにFCoV抗原を免疫染色で証明する方法が最も確定的です。1

神経型ではMRIで水頭症、脳室周囲・髄膜の造影、脊髄・脳幹病変を評価し、必要に応じCSF(脳脊髄液)検査を行います。ただし頭蓋内圧亢進が疑われる猫のCSF採取には脳ヘルニアの危険があり、先にMRI等で安全性を評価します。CSF RT-PCRは神経症状を有する症例に限ると感度83〜86%、特異度100%の報告がありますが、陰性でも除外できません。眼型では眼房水検査を検討しますが、専門的な採材が必要です。1 16

「FIPが非常に疑わしいが、重症で侵襲的検査に耐えられない」場合、適切な抗ウイルス薬への迅速かつ持続的反応を診断補助として用いる考え方が国際ガイドラインで示されています。ただし、治療反応だけに依存せず、48時間で改善しない場合には用量、投与、吸収、製剤品質とともに鑑別疾患を再評価します。1

4. 治療の提案

現在の治療の中心は、ウイルスRNA合成を阻害するヌクレオシド類似体です。なかでも経口GS-441524は最も研究が蓄積し、報告成功率は80〜100%、複数の研究で90%を超えています。治療は、薬剤名だけでなく、製剤品質、実投与量、病型、服薬可能性、体重増加に応じた用量補正、支持療法、定期モニタリングを一体として設計します。11 13 21 25

4-1. 内科的治療

2026年ABCD治療アップデートでは、経口GS-441524 15 mg/kg、24時間ごとが、多くの病型で有効な実用的開始量として示されています。神経症状が重い症例、眼病変が強い症例、標準量への反応が不十分な症例では、より高い曝露が必要となることがあり、10〜15 mg/kg、12時間ごとが安全に使用された報告があります。ただし用量は製剤のバイオアベイラビリティ(体内に吸収され利用される割合)で変わるため、獣医師が製剤ごとに判断します。21

治療期間は従来84日が標準でしたが、体腔液型を対象とした前向き無作為化試験では42日治療が84日治療と同等の有効性を示しました。したがって、臨床反応が速く、体腔液が消失し、検査値が十分改善する選択症例では42日を検討できます。一方、神経型・眼型、反応が遅い症例、診断不確実性が残る症例、投与中断や吸収不良がある症例では、安易に短縮せず個別化します。21

レムデシビルはGS-441524のプロドラッグ(体内で活性体へ変換される薬)で、重症で経口薬を飲めない、消化管吸収が不安定、重い神経症状があるなどの初期に、静脈内投与を検討します。状態が安定したら経口GS-441524へ移行する方法が一般的です。皮下注射は疼痛を伴うことがあり、現在は経口投与または必要時の静脈内投与が優先されます。21 24

モルヌピラビルは第一選択または救済治療で有効性が報告されていますが、反応がGS-441524より遅い可能性、好中球減少などの副作用、変異原性への懸念があります。現時点では、品質管理されたGS-441524を使用できる場合はそちらを優先し、モルヌピラビルは専門的判断のもとで代替・救済薬として扱うのが妥当です。21

ステロイドは抗ウイルス薬の代替ではありません。重度の神経炎症、免疫介在性溶血性貧血、強いぶどう膜炎など、炎症そのものが臓器障害を起こす限定的状況で短期間併用します。漫然とした免疫抑制は避けます。21

4-2. 外科的治療の適応

FIPを外科手術で治すことはできません。外科的介入は、確定診断のためのリンパ節・腸管・肝などの生検、呼吸を妨げる胸水のドレナージ、まれに炎症後水頭症に対する脳室腹腔シャントなどに限られます。腹水は大量でも、呼吸や循環を圧迫していなければ全量排液せず、必要最小限にします。抗ウイルス治療により多くは自然に減少します。21

4-3. 支持療法・補助療法

重症例では、酸素、疼痛管理、適切な輸液、制吐薬、食欲刺激、栄養管理、低血糖へのブドウ糖、重度貧血への輸血、けいれんへの抗発作薬を組み合わせます。胸水で呼吸困難がある場合は治療的胸腔穿刺を行います。ぶどう膜炎では抗ウイルス薬に加え、眼圧を確認しながら局所ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、散瞳・調節麻痺薬などを使用します。21

治療開始後は、48時間以内に服薬状況と臨床反応を確認し、2週時点で体腔液、CBC、生化学、体重を再評価します。体腔液が2週で大きく減らない場合は、診断、服薬、吸収、用量、製剤品質を再点検します。回復による体重増加でmg/kg用量が不足しないよう、1〜2週ごとに体重を測定して実投与量を補正します。21

図表⑤:推奨治療プロトコル

治療の種類薬剤・処置名用量・用法投与期間の目安エビデンスレベル
第一選択抗ウイルス療法経口GS-44152415 mg/kg、経口、24時間ごと。体重増加時に補正原則42〜84日。病型・反応・検査値で個別化中〜高:前向き研究、複数コホート、期間比較RCT
高曝露が必要な症例経口GS-44152410〜15 mg/kg、経口、12時間ごとを検討神経・眼病変や反応不十分時に個別化中:ガイドラインと臨床コホート
重症初期・経口困難レムデシビル10〜15 mg/kg、静脈内、24時間ごとを目安に、病型・製剤・状態で調整数日〜経口可能まで。その後GS-441524へ移行中:前向き・後ろ向きコホート、非劣性研究
代替・救済抗ウイルス療法モルヌピラビル報告では概ね10〜20 mg/kg、経口、12時間ごと。専門管理下のみ多くの研究で84日。救済時は個別化低〜中:症例集積・比較研究。安全性懸念あり
重度神経炎症プレドニゾロン1 mg/kg/日、経口を短期間。改善後漸減数日〜数週、抗ウイルス薬と併用低:専門家推奨と症例報告
FIP関連IMHA(免疫反応で赤血球が壊れる貧血)プレドニゾロン1〜2 mg/kg/日、経口。血球反応で漸減個別化。血向性マイコプラズマ除外を検討低:症例報告・臨床経験
呼吸困難を伴う胸水治療的胸腔穿刺+酸素呼吸が改善する量を慎重に排液必要時。通常は抗ウイルス反応まで中:救急診療標準・専門家合意
重度貧血赤血球輸血PCV、症状、循環状態に応じて個別設定必要時中:支持療法標準
ぶどう膜炎局所抗炎症薬・散瞳薬眼圧と病変部位に応じ眼科的に設定炎症消退まで中:ガイドライン・症例報告

薬用量は研究と国際ガイドラインに基づく一般的目安で、自己投薬のための指示ではありません。国内での承認・入手・調剤条件、製剤濃度、併存疾患により実際の処方は異なります。個人輸入など品質保証のない製剤は、表示量と実含有量が一致しない報告があり、治療失敗、副作用、耐性化の懸念があります。21

5. 予後

5-1. 治療反応性と生存期間

抗ウイルス薬以前は、プレドニゾロン単独または従来の免疫調整治療での生存期間中央値(MST:対象の半数が生存している時点までの期間)が8日または31日と報告されるなど、FIPの予後は極めて不良でした。現在、GS-441524の研究では治療成功率80〜100%が報告され、複数研究で90%を超えています。これは「確定診断したら終末期」という過去の理解を根本から変える成果です。12

レムデシビルを含む28例の研究では6か月生存率86%、治療開始後48時間を生存した猫に限ると96%が回復しました。307例の実臨床研究でも、適法に調製されたレムデシビル・GS-441524による高い治療成功が示されています。2025年12月公開(2026年巻)の629例の後ろ向きGS-441524コホートでは生存94.12%、再発0.63%と報告されましたが、治療選択、診断確度、追跡期間が均一でない点には注意が必要です。24 28

治療反応は多くの場合、数日以内の解熱・活力・食欲改善として現れ、体腔液は約2週までに明らかに減少します。ビリルビンは比較的早く改善し、貧血、A:G比、高グロブリン血症はその後ゆっくり正常化します。治療開始時に重篤な猫は最初の48時間が大きな分岐点です。21

FIP治療研究では、成功群のMSTは追跡期間中に50%が死亡しないため「未到達」となることが多く、標準化された1年生存率を全病型で示せるデータはまだ限定的です。一方、治療終了後1年以上の長期寛解例は複数研究で確認されており、適切に治療を完了して再発がなければ、通常の生活に戻れる猫が多いと考えられます。飼い主さまには、単一の数字ではなく、診断時の重症度、病型、48時間の初期反応、2週時点の検査改善を合わせて見通しを説明します。21 25

再発は治療終了後数週から数か月に起こり得ます。体重増加後も同じ錠数を続けて実質的な低用量になった場合、投与中断、吸収不良、神経・眼病変への曝露不足、製剤品質の不確実性などが関係します。再発時も、診断を再評価したうえで、用量調整または別機序薬を含む救済治療に反応する可能性があります。21

5-2. 予後を左右する因子

図表⑥:予後因子の比較

分類予後因子根拠となる論文・データ
良好な予後因子抗ウイルス開始後48時間を生存し、食欲・活力・体温が改善Cogginsら28例:48時間生存25例中24例(96%)が6か月生存。小規模研究のため、個体の確率を保証する数字ではない 24
良好な予後因子2週までに体腔液が明らかに減少2026年ABCDガイドラインでは、多くの反応例で約2週までに体腔液が消退。反応指標であり、感度・特異度は未確立 21
良好な予後因子ビリルビン低下、アルブミン・A:G比の上昇治療反応を示す連続的な指標。単独の予後カットオフやハザード比は確立していない 21
良好な予後因子PCV上昇、貧血・血小板減少の改善回復を支持する経時的指標。初回値だけで治療成否を判定しない 21
良好な予後因子AGP・SAAの低下・正常化AGP(炎症時に増える蛋白)とSAA(急性炎症蛋白)はモニタリングに有用だが、治癒判定の単独基準ではない 17 21
不良な予後因子LDH(乳酸脱水素酵素)323 U/L以上Gotoら108例:84日以内死亡のOR(オッズ比)15.30(95%信頼区間1.18〜198.00)。感度83.3%、特異度89.6%、ROC曲線下面積0.913 27
不良な予後因子高ビリルビン血症・黄疸、低アルブミン、低Na・低KGotoらでは非生存群に多かったが、多変量解析で独立して有意だったのはLDHのみ。単独因子としての断定はできない 27
不良な予後因子低血糖、低血圧、敗血症様状態重症全身炎症・循環不全を示す危険徴候。定量的なFIP固有の効果量は未確立 21
不良な予後因子進行する貧血、血小板減少、神経型・混合型629例の後ろ向き研究で低生存と関連(p<0.05)。交絡因子を含み、因果関係は未確定 28
不良な予後因子6歳超同629例研究で低生存と関連したが、6歳超は6/629例(0.95%)のみ。高齢猫全体へ一般化できない 28
不良な予後因子48時間で臨床改善が乏しい、2週で体腔液が減らない診断、投与量、服薬、吸収、製剤品質、併存疾患を直ちに再評価する警告所見 21

重要なのは、「予後予測因子」と「治療が効いていることを示す経時的指標」を区別することです。現時点で比較的強い定量データがあるのはLDHですが、ORの95%信頼区間が1.18〜198.00と非常に広く、同じ323 U/Lというカットオフをすべての検査機器・症例へ機械的に適用できません。この値は治療を諦める判断には使わず、集中監視と支持療法を強化するための補助指標とします。21

5-3. 飼い主が自宅でできるケアとQOL(生活の質)の維持

自宅では、毎日の食事量・服薬、安静時呼吸数、排尿・排便、活動性を記録し、1〜2週ごとに体重を測ります。安静時呼吸数は眠っているときに胸の上下を1分間数え、持続して40回/分を超える、努力呼吸、開口呼吸がある場合は緊急受診してください。腹囲を同じ位置で測る方法は腹水の参考になりますが、超音波の代わりにはなりません。

服薬後の嘔吐、強い食欲低下、下痢、黄疸の悪化、ふらつき、けいれん、視覚異常は早めに連絡してください。回復期は急に活発になっても、体力と筋肉量が戻るまで段階的に運動を増やします。静かな部屋、隠れ場所、暖かい寝床、複数の水飲み場を用意し、通院時は猫にやさしいハンドリングを徹底します。

治療終了の判断は「元気になったから」だけでは行いません。臨床症状、体重、体腔液、CBC、アルブミン、グロブリン、A:G比、ビリルビン、必要に応じAGP・SAAを総合し、終了後も再発徴候を定期確認します。残存する腹腔リンパ節腫大や軽度リンパ球増加が、必ずしも再発を意味しない点も重要です。21

まとめ・イース動物病院へのご相談

FIPは多彩な症状を示し、単一の抗体検査やPCRだけでは診断できません。体腔液があればその分析が最も有用で、体腔液がなければ超音波で標的病変を探し、細胞診・病理・免疫染色を組み合わせます。治療の中心は品質管理されたGS-441524等の抗ウイルス薬で、適切な用量、体重補正、支持療法、2週ごとの初期評価が成功率を左右します。現在は多くの研究で90%前後またはそれ以上の治療成功が報告されており、早期に疑って治療へつなげる意義は非常に大きいといえます。1 25

大田区の動物病院、また大森の動物病院をお探しで、猫の長引く発熱、食欲低下、腹囲膨満、呼吸異常、黄疸、眼・神経症状が気になる場合は、早めにご相談ください。イース動物病院では、身体検査、血液検査、画像検査を組み合わせ、必要な検体採取や専門施設との連携を含めて診断・治療計画をご提案します。大森西の動物病院として、大森町・蒲田・池上・馬込・西馬込・平和島・大井町・品川・川崎からも受診しやすい診療体制を整えています。

イース動物病院(大田区大森西)へのご相談はお気軽に

大田区・大森・蒲田・品川・川崎エリアで愛猫の体調にご不安があれば、どうぞお気軽にイース動物病院へご相談ください。当院は土曜・日曜・祝日も年中無休で診療しており、平日でも週末でも受診いただけます。

項目内容
病院名イース動物病院
院長芹沢和也
住所〒143-0015 東京都大田区大森西4-17-20
TEL03-3768-7606
診療日年中無休(土・日・祝日も診療)
アクセス①京急本線「大森町駅」より徒歩10分(商店街を抜け東邦医大通りを左折、「東邦大学前」交差点)
アクセス②JR「蒲田駅」よりバス約4分
アクセス③JR「大森駅」よりバス約12分

参考文献

主要論文(引用数上位・基礎となる研究)

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免責事項:本稿は飼い主さま向けの一般的な獣医学情報であり、個々の猫の診断・処方を代替するものではありません。呼吸困難、けいれん、意識低下、重度の食欲廃絶がある場合は、記事を読むより先に動物病院へご連絡ください。