【大田区・大森の動物病院】犬の顔面神経麻痺を獣医師が徹底解説
はじめに
大田区・大森・蒲田エリアの飼い主の皆さま、こんにちは。イース動物病院 院長の芹沢和也です。今回は、愛犬の顔の片側が急に垂れ下がったり、瞬きができなくなったりする「顔面神経麻痺」について解説します。当院の臨床現場でも比較的よく遭遇する疾患であり、突然の症状に驚かれる飼い主様も少なくありません。しかし、適切な診断とケアを行えば、愛犬のQOL(生活の質)を十分に維持できる病気でもあります。本記事では、最新の獣医学的エビデンスに基づき、症状から検査、治療、そしてご自宅でのケアまでを詳しくお伝えします。
1. 臨床兆候
顔面神経麻痺の症状は、顔の筋肉を動かす神経(第VII脳神経)の機能が低下することで生じます。飼い主様が自宅で気づける初期症状から、進行時の重篤な症状まで、発症頻度の高い順に解説します。
1-1. 早期に現れる症状
最も一般的なのは、顔の片側(まれに両側)の筋肉が垂れ下がる症状です 2。耳が下がる、唇がだらんと垂れる、鼻筋が健常な側に引っ張られるといった変化が見られます 3。また、瞬きがうまくできなくなる(眼瞼反射の消失)ことも特徴です 4。
1-2. 進行に伴い現れる症状
瞬きができないことで涙の量が減少し、眼の表面が乾燥して目やにが増えたり、角膜潰瘍(目の表面に傷がつくこと)を引き起こすことがあります 6。また、唇が垂れ下がることで、食事の際に食べ物をこぼしたり、よだれが多くなったりします 2。
1-3. 緊急性の高い症状(すぐに受診すべきサイン)
顔面神経麻痺に加えて、首が傾く(捻転斜頸)、眼球が揺れる(眼振)、まっすぐ歩けない(運動失調)などの前庭症状(バランス感覚の異常)が見られる場合は、中耳炎や内耳炎、あるいは脳の病気(脳腫瘍や脳炎など)が疑われるため、早急な受診が必要です 7。
▼ 【図表①:臨床兆候の出現頻度】
| 臨床兆候 | 出現頻度(%) | 飼い主が気づくポイント |
|---|---|---|
| 瞬きができない(眼瞼麻痺) | 約90-100% | 目を閉じられない、目にゴミが入りやすい |
| 唇の垂れ下がり | 約80-90% | 口元がだらんと下がる、食べ物をこぼす |
| 耳の垂れ下がり | 約70-80% | 片方の耳だけが下がる(立ち耳の犬種で顕著) |
| よだれの増加(流涎) | 約50-60% | 口の端からよだれが垂れる |
| 鼻筋の偏位 | 約40-50% | 鼻先が正常な側に引っ張られて曲がる |
| 角膜潰瘍(目の傷) | 約30-60% | 目が赤い、痛がる、目やにが多い |
| 前庭症状(首の傾き、眼振など) | 約30-50% | まっすぐ歩けない、首が傾いている |
2. 鑑別疾患
顔面神経麻痺は、原因不明の「特発性」が最も多い(約75%)ですが、他の病気が原因で起こることもあります。類似した症状を示す他の疾患との鑑別が非常に重要です。
▼ 【図表②:主要な鑑別疾患の比較】
| 疾患名 | 共通する症状 | 本疾患(特発性)との主な違い | 鑑別に有用な検査 |
|---|---|---|---|
| 中耳炎・内耳炎 | 顔面神経麻痺、前庭症状(首の傾きなど) | 耳の痛み、耳垢、鼓膜の異常が見られる | 耳鏡検査、CT/MRI検査 |
| 甲状腺機能低下症 | 顔面神経麻痺、元気消失 | 脱毛、肥満、徐脈(心拍数が遅い)などを伴う | 血液検査(甲状腺ホルモン測定) |
| 脳腫瘍・脳炎 | 顔面神経麻痺、前庭症状 | 他の脳神経の異常、意識の低下、けいれん発作 | MRI検査、脳脊髄液検査 |
| 多発性神経障害 | 顔面神経麻痺、四肢の脱力 | 全身の筋力低下、声のかすれ(喉頭麻痺)を伴う | 筋電図検査、神経伝導検査 |
| 特発性三叉神経障害 | 口が閉じられない | 顔面の麻痺ではなく、下顎が垂れ下がる | 神経学的検査 |
3. 検査と診断アプローチ
顔面神経麻痺の診断は、他の原因疾患を除外していくプロセス(除外診断)が基本となります。
▼ 【図表③:診断フローチャート】
- 問診・身体検査・神経学的検査
- 他の脳神経(三叉神経、前庭内耳神経など)の異常がないか確認
- ↓ 異常なしの場合
- 耳鏡検査
- 中耳炎・外耳炎の有無を確認
- ↓ 異常なしの場合
- 血液検査・甲状腺ホルモン測定
- 全身状態の把握、甲状腺機能低下症の除外
- ↓ 異常なしの場合
- 涙液量測定(シルマーティアテスト)
- ドライアイ(神経性乾性角結膜炎)の有無を確認
- ↓
- 画像診断(必要に応じてCT/MRI検査)
- 中耳炎、脳腫瘍、脳炎などの確定診断・除外
- ↓ 他の原因がすべて除外された場合
- 「特発性顔面神経麻痺」と診断
3-1. 身体検査のポイント
神経学的検査により、顔面神経以外の脳神経(三叉神経や前庭内耳神経など)に異常がないかを確認します。威嚇瞬き反射(目の前に手を近づけたときに瞬きをするか)や、口唇反射(唇をつまんだときに引き込むか)を評価します 3。また、耳の奥に炎症や腫瘍がないかを耳鏡で観察することも重要です。
3-2. 一次検査
大田区の動物病院である当院では、顔面神経麻痺が疑われる症例に対して、以下の一次検査を推奨しています。
■ 血液検査(CBC:全血球算定・生化学検査)
全身の健康状態を評価し、基礎疾患(糖尿病や感染症など)がないかを確認します。特に中高齢の犬では、甲状腺ホルモン(T4、fT4、TSH)の測定が必須です。甲状腺機能低下症の犬の約7%に神経症状が現れるという報告があります 5。※CBC(Complete Blood Count)は、赤血球・白血球・血小板の数を調べる検査です。
■ X線(レントゲン)検査所見
- 推奨撮影体位と部位:頭部の腹背位(仰向け)、背腹位(うつ伏せ)、左右側臥位(横向き)、および鼓室胞(中耳を囲む骨)を評価するための開口腹背位や斜位撮影を行います。
- 正常との比較:正常な鼓室胞は内部に空気が含まれるため黒く抜けて見え、骨の壁は薄く均一です。
- 本疾患で特徴的なX線所見:特発性顔面神経麻痺ではX線画像に異常は認められません。しかし、中耳炎が原因の場合、鼓室胞の壁の肥厚(骨が分厚くなる)や硬化(白く硬くなる)、内部の不透過性亢進(通常は黒く抜けて見える空洞部分が、膿や肉芽組織で白く濁って見える)が認められます。また、周囲の骨が溶けている(骨融解)場合は、腫瘍の可能性も疑われます。
- 所見の出現頻度:中耳炎の症例において、X線検査で異常が検出される頻度は約50〜70%程度です(CT検査に比べて感度が劣ります)32。
- 見落としやすいポイントと注意点:左右の鼓室胞を比較し、非対称性がないかを注意深く観察します。初期の中耳炎ではX線での変化が乏しいことが多く、「X線画像では異常がないように見えても、中耳炎を完全に除外することはできない」という点に注意が必要です。より詳細な評価にはCT検査が推奨されます 7。
■ 超音波(エコー)検査所見
顔面神経麻痺の診断において、超音波検査は頭蓋骨に阻まれるため中耳や脳の評価には適していません。しかし、甲状腺機能低下症が疑われる場合や、頸部の腫瘍(甲状腺癌など)が疑われる場合には有用です。
- 検査時の体位・プローブの当て方・評価する部位:仰向け(仰臥位)で頸部を伸ばし、気管の両側にある甲状腺や周囲のリンパ節を評価します。
- 正常との比較:正常な甲状腺は、周囲の筋肉に比べてやや高エコー(白く明るく見える)で、均一な構造をしています。
- 本疾患で特徴的なエコー所見:甲状腺機能低下症では、甲状腺の萎縮(小さくなること)や、低エコー(暗く黒っぽく見える部分)化、境界の不鮮明化が認められます。カラードプラ検査(血流を評価する機能)では、血流信号の低下がみられることがあります。甲状腺腫瘍の場合は、不均一な腫瘤(しこり)や豊富な血流が観察されます。
- 所見の出現頻度:甲状腺機能低下症の犬において、超音波検査で甲状腺の異常が認められる頻度は約60〜80%です(要確認)。
- 見落としやすいポイントと注意点:小型犬では甲状腺自体が小さいため、正常であっても描出が難しい場合があります。超音波検査のみで甲状腺機能低下症を確定診断することはできず、必ず血液検査(甲状腺ホルモン測定)と組み合わせて評価します 5。
▼ 【図表④:各検査の主要所見サマリー】
| 検査の種類 | 主要な所見 | 出現頻度(%) | 臨床的意義 |
|---|---|---|---|
| 耳鏡検査 | 外耳炎、鼓膜の破れ・変色 | 10-20% | 中耳炎の存在を示唆 |
| 甲状腺ホルモン測定 | T4・fT4の低下、TSHの上昇 | 約5-10% | 甲状腺機能低下症の診断 |
| シルマーティアテスト | 涙液量の減少(15mm/分未満) | 約30-50% | 神経性乾性角結膜炎(ドライアイ)の併発を確認 |
| X線検査(頭部) | 鼓室胞の不透過性亢進(白濁) | 10-20% | 中耳炎の存在を示唆(感度は低い) |
| CT/MRI検査 | 中耳内の貯留物、脳幹の病変、神経の造影増強 | 10-30% | 中耳炎、脳腫瘍、脳炎などの確定診断 |
3-3. 二次検査・確定診断のための特殊検査
中耳炎や脳疾患が疑われる場合は、全身麻酔下でのCT検査やMRI検査が必要となります。MRI検査では、顔面神経の炎症や腫脹(腫れ)を直接評価できる場合があります 7。また、多発性神経障害が疑われる場合は、筋電図検査(EMG:筋肉の電気的な活動を調べる検査)や神経伝導検査(NCV:神経に電気刺激を与えて伝わる速さを調べる検査)を行うことがあります 1。
4. 治療の提案
特発性顔面神経麻痺に対する特効薬はありませんが、原因疾患がある場合はその治療を、特発性の場合は症状を和らげる対症療法を行います。大田区のイース動物病院では、以下の治療プロトコルを推奨しています。
4-1. 内科的治療
大森西の動物病院として、当院ではまず内科的治療を優先して検討します。最も重要なのは、目の保護です。瞬きができないことで角膜が乾燥し、潰瘍ができやすくなるため、1日に複数回の人工涙液やヒアルロン酸点眼薬の点眼が不可欠です 6。涙液量が低下している(神経性乾性角結膜炎)場合は、ピロカルピンという神経を刺激する点眼薬や内服薬を使用することがあります 9。甲状腺機能低下症が原因の場合は、甲状腺ホルモン製剤(レボチロキシン)を投与します 5。
4-2. 外科的治療の適応
重度の中耳炎や腫瘍が原因の場合、外科的手術(全耳道切除術や鼓室胞切開術など)が必要になることがあります。また、角膜潰瘍が重度で治りにくい場合、まぶたの一部を縫い合わせる手術(眼瞼縫合術)や、まぶたに重り(ゴールドウェイト)を埋め込んで瞬きを補助する手術が検討されることもあります 10。
4-3. 支持療法・補助療法
特発性顔面神経麻痺に対して、レーザー治療、マッサージが神経の回復を促す可能性があると報告されています。また、食事がうまく取れない場合は、食器の高さを上げたり、柔らかい食事に変更するなどの工夫が必要です 1。
▼ 【図表⑤:推奨治療プロトコル】
| 治療の種類 | 薬剤・処置名 | 用量・用法 | 投与期間の目安 | エビデンスレベル |
|---|---|---|---|---|
| 眼の保護(点眼) | ヒアルロン酸ナトリウム点眼液 | 1日4-6回 点眼 | 生涯(または回復まで) | 高(標準的ケア) |
| 涙液分泌促進 | ピロカルピン | 1-2%溶液を食事に混ぜて投与など | 涙液量が回復するまで | 中(一部の症例で有効) |
| ホルモン補充 | レボチロキシン | 0.02mg/kg 1日2回 経口 | 生涯(甲状腺機能低下症の場合) | 高(RCT等の高いエビデンスあり) |
| 物理療法 | 鍼治療、レーザー治療 | 週1-2回 | 数週間〜数ヶ月 | 低〜中(症例報告レベル) |
※RCT(Randomized Controlled Trial:ランダム化比較試験)は、治療効果を客観的に評価する信頼性の高い研究手法です。
5. 予後
顔面神経麻痺の予後は、原因によって大きく異なります。飼い主様が今後の見通しを持てるよう、論文データに基づき解説します。
5-1. 治療反応性と生存期間
特発性顔面神経麻痺の場合、命に関わることはありませんが、神経機能の完全な回復は難しいことが多いです。一部の犬では数週間から数ヶ月で回復しますが、部分的な回復にとどまるか、全く回復しないケースも少なくありません。ある研究では、特発性顔面神経麻痺の犬の約半数が、長期間にわたり症状が残存したと報告されています 8。生存期間の中央値(MST:統計的に半数の犬が生存する期間)は特発性であれば健常な犬と変わりません。片側が発症した後、数日〜数週間後にもう片側が発症することもあります 2。
5-2. 予後を左右する因子
回復の可能性を予測する上で、いくつかの要因が知られています。
▼ 【図表⑥:予後因子の比較】
| 分類 | 予後因子 | 根拠となる論文・データ |
|---|---|---|
| 良好な予後因子 | 過去に前庭症状(首の傾きなど)の既往がある | Orlandiら(2020)7、回復のオッズ比3.52(有意に回復しやすい) |
| 良好な予後因子 | 甲状腺機能低下症が原因である | Bertalanら(2013)5、ホルモン補充療法により数週〜数ヶ月で神経症状が改善する報告が多い |
| 良好な予後因子 | 若齢での発症(2歳未満) | Chanら(2020)8、特発性のリスクが低く、中耳炎など治療可能な原因である可能性が高い |
| 不良な予後因子 | MRI検査で顔面神経・内耳神経の造影増強(強い炎症)がある | Orlandiら(2020)7、回復のオッズ比0.38(回復しにくい) |
| 不良な予後因子 | 角膜の知覚低下(角膜の感覚が鈍い)やブドウ膜炎の併発 | Gazteluら(2026)6、重篤な眼科合併症に進行するリスクが高い |
| 不良な予後因子 | 短頭種(フレンチブルドッグなど)である | Gazteluら(2026)6、眼球が突出しているため、重度の角膜潰瘍を発症しやすい |
5-3. 飼い主が自宅でできるケアとQOL(生活の質)の維持
顔面神経麻痺の犬のQOLを維持するためには、ご自宅でのケアが非常に重要です。
- こまめな点眼:眼の乾燥を防ぐため、指示された回数の点眼を必ず行ってください。
- 眼の観察:目が赤くないか、痛がって目をこすろうとしていないか、目やにが増えていないかを毎日チェックしてください。
- 口周りの清潔:よだれや食べこぼしで口の周りが汚れやすくなるため、食後は優しく拭き取り、皮膚炎を防ぎましょう。
- 食事の工夫:食べやすいように食器を少し高い位置に置く、フードをふやかして柔らかくするなどの工夫が有効です。
まとめ・イース動物病院へのご相談
犬の顔面神経麻痺について、以下の重要なポイントを押さえておきましょう。
- 最も多いのは原因不明の「特発性」ですが、中耳炎や甲状腺機能低下症などの病気が隠れていることもあります。
- 瞬きができないことによる「眼の乾燥・角膜潰瘍」の予防が最も重要です。
- 完全に回復しないことも多いですが、適切なケアで十分な生活の質(QOL)を保つことができます。
- 首の傾きやふらつきなどの「前庭症状」が伴う場合は、早急な検査が必要です。
🏥 イース動物病院(大田区大森西)へのご相談はお気軽に
大田区・大森・蒲田・品川・川崎エリアで愛犬・愛猫の体調でご不安なことがあれば、どうぞお気軽にイース動物病院へご相談ください。当院は土曜・日曜・祝日も年中無休で診療しており、お仕事のある平日でも週末でも受診いただけます。大森の動物病院として、地域の皆様の大切なご家族の健康をサポートいたします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 病院名 | イース動物病院 |
| 院長 | 芹沢和也 |
| 住所 | 〒143-0015 東京都大田区大森西4-17-20 |
| TEL | 03-3768-7606 |
| 診療日 | 年中無休(土・日・祝日も診療) |
| アクセス① | 京急本線「大森町駅」より徒歩10分(商店街を抜け東邦医大通りを左折、「東邦大学前」交差点) |
| アクセス② | JR「蒲田駅」よりバス約4分 |
| アクセス③ | JR「大森駅」よりバス約12分 |
