【大田区・大森の動物病院】猫の心筋症(HCM等)を獣医師が徹底解説

はじめに

大田区・大森・蒲田・品川・川崎エリアの飼い主の皆さま、こんにちは。イース動物病院 院長の芹沢和也です。今回は、当院の日常診療でも非常に遭遇頻度の高い「猫の心筋症」について詳しく解説いたします。猫の心筋症、特に肥大型心筋症(HCM)は、成猫の約15%が罹患するとされる非常に一般的な心疾患です [1]。初期には症状がなく(無症候性)、突然の呼吸困難や後ろ足の麻痺(動脈血栓塞栓症)、さらには突然死を引き起こすこともある恐ろしい病気です。愛猫のわずかな変化に気づき、早期発見・早期治療に繋げていただくため、本記事では最新の獣医学的エビデンス(EBVM)に基づき、症状から検査、治療、そして予後までを詳細に解説します。


1. 臨床兆候

猫の心筋症は、進行するまで症状が表に出にくいという特徴があります。飼い主様が自宅で気づける初期症状から、進行時の重篤な症状までを発症頻度の高い順に解説します。

1-1. 早期に現れる症状

多くの猫(特にACVIM:米国獣医内科学会のガイドラインに基づくステージBの段階)では、明らかな症状は見られません(無症候性)[2]。しかし、注意深く観察すると以下のような変化が見られることがあります。

  • 活動性の低下:以前より遊ばなくなった、寝ている時間が増えた。
  • 食欲のムラ:食べる量が減ったり、残すことが増えた。

1-2. 進行に伴い現れる症状

心臓の機能が低下し、うっ血性心不全(CHF:心臓のポンプ機能低下により肺や胸に水が溜まる状態)に近づくと、以下のような症状が現れます。

  • 呼吸の異常:安静時の呼吸数が速い(1分間に30回以上)、努力性呼吸(お腹を使って息をする)。
  • 元気消失・食欲廃絶:全く動きたがらず、食事も摂らなくなる。

1-3. 緊急性の高い症状(すぐに受診すべきサイン)

以下の症状が見られた場合は、命に関わる状態(ACVIMステージC)であるため、夜間や休日であっても直ちに大田区の動物病院など、最寄りの救急対応可能な病院を受診してください。

  • 開口呼吸:犬のようにハァハァと口を開けて呼吸をする(猫の開口呼吸は非常に危険なサインです)。
  • 後肢の麻痺・激しい痛み:突然、後ろ足が立たなくなり、激しく鳴いて痛がる。足先が冷たく、肉球が青白くなる(動脈血栓塞栓症:ATEのサイン)[3]。
  • 失神:突然倒れて意識を失う。

▼ 【図表①:臨床兆候の出現頻度】

臨床兆候出現頻度(%)飼い主が気づくポイント
無症状(心雑音等の偶発的発見)約50〜60%症状はないが、健康診断で心雑音やギャロップ音を指摘される
呼吸異常(頻呼吸・呼吸困難)約20〜30%安静時の呼吸数が速い、口を開けて苦しそうに呼吸する(肺水腫・胸水のサイン)
元気消失・食欲不振約15〜25%いつもより動きたがらない、フードを残す
後肢麻痺(動脈血栓塞栓症)約11%突然の激しい痛みによる鳴き声、後ろ足が立たない、肉球が冷たく青白い
失神・突然死約2〜5%突然倒れる、前触れなく亡くなる

※頻度データは一般的な臨床集団に基づく概算値です [1][3]。


2. 鑑別疾患

猫の心筋症、特に肥大型心筋症(HCM)は「除外診断」が基本となります。つまり、心臓の壁が厚くなる(左室肥大)原因として、他の全身性疾患を除外しなければなりません [4]。

▼ 【図表②:主要な鑑別疾患の比較】

疾患名共通する症状本疾患(HCM)との主な違い鑑別に有用な検査
甲状腺機能亢進症心雑音、頻脈、活動性変化食欲旺盛なのに痩せる、多飲多尿、高齢猫に多い血液検査(総サイロキシン:T4測定)
全身性高血圧心雑音、左室肥大眼の異常(網膜剥離による突然の失明)、腎疾患の併発血圧測定、眼底検査、腎機能検査
脱水心拍出量低下、粘膜乾燥一過性の心室壁の肥厚(偽性肥大)身体検査、PCV(赤血球容積率)・TP(総タンパク)上昇、輸液後のエコー再評価
大動脈弁狭窄症心雑音、左室肥大先天性の構造異常(猫では稀)心エコー検査(大動脈弁の形態・血流速度)
先端巨大症左室肥大、心不全症状糖尿病の併発(インスリン抵抗性)、下顎の突出など体型変化IGF-1(インスリン様成長因子1)測定、脳のMRI検査

3. 検査と診断アプローチ

心筋症の診断は、身体検査から始まり、血液検査、X線検査、そして確定診断のための心エコー検査へと順を追って進めます。

▼ 【図表③:診断フローチャート】

[身体検査] 心雑音・ギャロップ音の聴取、不整脈、呼吸異常の確認
   ↓
[一次検査]
 ├─ [血液検査] 甲状腺機能亢進症や腎疾患の除外、心筋バイオマーカー(NT-proBNP等)の測定
 ├─ [血圧測定] 全身性高血圧の除外
 └─ [胸部X線検査] 心拡大の有無、肺水腫や胸水(うっ血性心不全)の評価
   ↓
[二次検査・確定診断]
 └─ [心エコー検査] 心室壁の厚さ、左房の拡大、拡張能・収縮能の評価、血栓の有無の確認
   ↓
[診断確定・ACVIMステージング(A〜D)]

3-1. 身体検査のポイント

  • 聴診:心雑音(特に胸骨左縁での収縮期雑音)やギャロップ音(タッタッタという3音の心音)の有無を確認します。ただし、HCMの猫の多くは心雑音を持たないこともあります。
  • 触診:大腿動脈の拍動を確認します。動脈血栓塞栓症(ATE)の場合、拍動が消失または減弱します。

3-2. 一次検査

■ 血液検査・バイオマーカー

一般的な血液検査(CBC:全血球算定、生化学)で全身状態を把握し、甲状腺ホルモン(T4)を測定して甲状腺機能亢進症を除外します。また、心筋のストレッチを反映するNT-proBNP(N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド)の測定が、無症候性心筋症のスクリーニングや心不全の診断補助に非常に有用です [5]。

■ X線(レントゲン)検査所見

心不全(肺水腫や胸水)の有無を確認するために不可欠です。

  • 推奨撮影体位:右側臥位(右を下にして寝た状態)および背腹位または腹背位(仰向け・うつ伏せ)の2方向以上。
  • 正常との比較・特徴的所見
  • 心拡大:VHS(椎骨心臓スコア:心臓の縦横の長さを胸椎の長さで評価する指標)が8.0を超える場合、心拡大を疑います(感度82.2%、特異度66.9%の報告あり)[6]。背腹位において、左心房の拡大により心臓が「バレンタインハート(ハート型)」に見えることがあります。ただし、この所見が見られるのはHCM猫の一部(約8%程度)であり、見落としに注意が必要です [7]。
  • 肺水腫(出現頻度 約20〜30%):猫の肺水腫は犬とは異なり、肺のあらゆる部位(パッチ状)に白く不透過性が亢進した影(濃度上昇)として現れます。
  • 胸水(出現頻度 約20〜30%):肺と胸壁の間に液体が貯留し、肺の辺縁が肺葉間裂として白く縁取られたり、心臓のシルエット(辺縁)が不明瞭になります。

■ 超音波(エコー)検査所見

心筋症の確定診断と病型分類(HCM、DCM:拡張型心筋症、RCM:拘束型心筋症など)、およびACVIMステージの判定に最も重要な検査です。

  • 評価部位・プローブの当て方:右傍胸骨長軸・短軸断面、左傍胸骨心尖部断面などからアプローチします。
  • 正常との比較・特徴的所見(HCMの場合)
  • 左室壁の肥厚(出現頻度 100%):拡張期の左室自由壁(LVFWd)または心室中隔(IVSd)の厚さが 6.0 mm以上(正常は5.0 mm未満)であれば、HCMと診断されます [2]。
  • 左心房の拡大:右傍胸骨短軸断面において、左心房/大動脈根径比(LA/Ao比)が 1.5〜1.6以上で左房拡大と判断します。1.8〜2.0を超えると、うっ血性心不全や血栓塞栓症のリスクが著しく高まります [1]。
  • SAM(僧帽弁収縮期前方運動):ドプラエコーで評価し、収縮期に僧帽弁が前方に引っ張られ、左室流出路狭窄(LVOTO)を引き起こす所見です。
  • もやもやエコー(SEC):左心房内に血流のうっ滞を示す白いモヤモヤしたエコー(Spontaneous Echocardiographic Contrast:高エコー像)が見られる場合、血栓形成の危険信号であり、死亡リスク上昇と関連します [8]。

▼ 【図表④:各検査の主要所見サマリー】

検査の種類主要な所見出現頻度(%)臨床的意義
バイオマーカーNT-proBNPの上昇心筋の伸展ストレスを反映。無症候性HCMのスクリーニングや心不全の診断に有用
X線検査心拡大(VHS>8.0、バレンタインハート等)中〜低左房または両心房の拡大を示すが、軽度肥大での感度は低い
X線検査肺水腫・胸水約20〜30%うっ血性心不全(ACVIMステージC)の確定診断
超音波検査左室壁の肥厚(≧6.0mm)100%(HCM)HCMの確定診断基準
超音波検査左房拡大(LA/Ao > 1.5)中〜高拡張不全の進行度を反映。予後不良および血栓リスクの指標
超音波検査SEC(もやもやエコー:高エコー像)・血栓低〜中動脈血栓塞栓症(ATE)の極めて高いリスクを示す

4. 治療の提案

猫の心筋症に対する治療は、ACVIM(米国獣医内科学会)のガイドラインに基づくステージング(A〜D)に従って行われます [2]。心臓の筋肉を元の正常な状態に戻す根本的な治療法は現在のところ存在しないため、治療の主な目的は「心不全の管理」「血栓塞栓症の予防」および「QOL(生活の質)の維持」となります。

4-1. 内科的治療(心不全の管理)

うっ血性心不全(肺水腫や胸水)を発症した猫(ステージC)に対する標準治療です。

  • 利尿薬:フロセミドが第一選択薬です。肺や胸腔に溜まった水分を尿として排出させ、呼吸を楽にします。生涯にわたる投与が必要になることがほとんどです。
  • ACE阻害薬:エナラプリルやベナゼプリルなど。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)を抑制し、血管拡張と心室リモデリングの抑制を期待して使用されます。
  • 強心薬・血管拡張薬:ピモベンダン。猫のHCMにおける有効性については議論がありますが、収縮機能の低下を伴う場合や、難治性の心不全に対して適応外使用(オフラベル)されることがあり、安全に忍容されるとの報告もあります [9]。

4-2. 動脈血栓塞栓症(ATE)の予防と治療

左房拡大が著しい猫(ステージB2)や、過去にATEを起こした猫に対する非常に重要な治療です。

  • 抗血小板薬:クロピドグレルが第一選択です(FAT CAT試験:大規模な無作為化比較試験(RCT)により、アスピリンより再発予防効果が高いことが証明されています)[10]。
  • 抗凝固薬:リバーロキサバン(第Xa因子阻害薬)などをクロピドグレルと併用(二剤併用療法)することで、血栓予防効果を高めるアプローチが近年注目されており、比較的安全に使用できると報告されています [11]。
  • ATE急性期には、強力な鎮痛薬(オピオイド等)の投与と、ヘパリン等による抗凝固療法が入院下で実施されます [12]。

4-3. 支持療法・補助療法

  • 呼吸困難が強い場合は、酸素室での管理(酸素療法)が必須です。
  • 胸水が大量に貯留している場合は、注射針で胸水を抜く処置(胸腔穿刺)を行うことで、劇的に呼吸状態が改善します。

▼ 【図表⑤:推奨治療プロトコル(当院の基本方針)】

治療の種類薬剤・処置名用量・用法(目安)投与期間の目安エビデンスレベル
利尿療法 (心不全時)フロセミド1〜2mg/kg/回 経口・注射生涯(状態に応じ増減)高(ACVIM推奨)
RAAS阻害 (心不全時)ベナゼプリル0.25〜0.5mg/kg/日 経口生涯
血栓予防 (ステージB2〜)クロピドグレル18.75mg/頭/日 経口生涯高(FAT CAT試験)
血栓予防 (高リスク/再発)リバーロキサバン2.5mg/頭/日 経口生涯(クロピドグレルと併用)中〜高
呼吸管理 (急性期)酸素吸入・胸腔穿刺状態に応じて実施急性期(入院管理)

5. 予後

心筋症の猫の予後は、診断時の進行度(ステージ)や合併症の有無によって大きく異なります。飼い主様が今後の見通しを立てられるよう、統計データに基づき解説します。

5-1. 治療反応性と生存期間

  • 無症候性(ステージB)の猫:多くの猫は無症状のまま数年間(中央値で3〜5年以上:約1,830日との報告あり)生存し、心疾患以外の原因で天寿を全うすることも珍しくありません [13]。
  • うっ血性心不全(CHF)を発症した猫:心不全を発症すると予後は厳しくなり、生存期間の中央値(MST)は約92日〜18ヶ月と報告により幅があります [13]。
  • 動脈血栓塞栓症(ATE)を発症した猫:最も予後が厳しく、急性期を乗り越えた場合でも、生存期間の中央値は約61〜184日と短く、再発のリスクも常に伴います [13]。
    ※なお、疾患別の生存期間中央値(MST)は、HCMが865日、RCM(拘束型心筋症)が273日との報告があります [14]。

5-2. 予後を左右する因子

予後を予測する上で、心エコー検査による「左心房の大きさ・機能」が最も重要な指標となります。

▼ 【図表⑥:予後因子の比較】

分類予後因子根拠となるデータ・臨床的意義
良好な予後因子左房拡大がない(LA/Ao < 1.5)心不全や血栓のリスクが低く、長期生存が期待できる
良好な予後因子SAM(僧帽弁収縮期前方運動)の存在SAMを伴う閉塞性HCMの方が、非閉塞性より生存期間が長いとする報告がある [13]
良好な予後因子無症候性での早期発見心不全や血栓発症前の段階であり、生存期間中央値が1,800日を超える報告がある [13]
不良な予後因子左心房機能の低下(LA-FS%の低下)ATE(動脈血栓塞栓症)発症による2年以内の死亡と独立して関連する [15]
不良な予後因子著しい左房拡大(LA/Ao > 2.0等)うっ血性心不全および血栓塞栓症の発生リスクが極めて高く、生存期間が有意に短縮する [15]
不良な予後因子動脈血栓塞栓症(ATE)の合併再発率が高く、QOLの著しい低下を招く。生存期間中央値(MST)の著しい短縮(61〜184日)[13]
不良な予後因子もやもやエコー(SEC)の存在死亡リスクの上昇と関連し、血栓形成の強い警告サインとなる [8]

5-3. 飼い主が自宅でできるケアとQOL(生活の質)の維持

  • 安静時の呼吸数のカウント:猫が寝ている時やリラックスしている時に、1分間の呼吸数(胸の上下で1回)を数えてください。継続的に30回/分を超える場合や、徐々に増えてくる場合は、心不全の悪化サインですので早急にご相談ください。
  • 確実な投薬:処方されたお薬(特に血栓予防薬や利尿薬)は、自己判断で中断せず、指示通りに飲ませることが命を繋ぐ鍵となります。
  • ストレスの軽減:過度な運動やストレスは心臓の負担となります。穏やかに過ごせる環境を整えてあげてください。

まとめ・イース動物病院へのご相談

猫の心筋症(HCM)は、初期には症状に気づきにくい病気ですが、適切な検査による早期発見と、ステージに合わせた治療(心不全管理と血栓予防)を行うことで、愛猫のQOLを維持し、長く一緒に過ごせる可能性が高まります。

  1. 定期的な健康診断(聴診やバイオマーカー測定)での早期発見が鍵です。
  2. 左心房の拡大が認められた場合は、血栓予防薬(クロピドグレル等)の投与が強く推奨されます。
  3. 呼吸が速い、後ろ足を引きずるなどの症状が出た場合は、一刻を争う緊急事態です。

🏥 イース動物病院(大田区大森西)へのご相談はお気軽に

大田区・大森・蒲田・品川・川崎エリアで愛猫の呼吸が少し速い、最近元気がないなど、体調でご不安なことがあれば、どうぞお気軽に大田区の動物病院「イース動物病院」へご相談ください。大森の動物病院として、心エコー検査をはじめとする各種検査機器を完備し、エビデンスに基づいた循環器診療を提供しております。
当院は土曜・日曜・祝日も年中無休で診療しており、お仕事のある平日でも週末でも受診いただけます。

項目内容
病院名イース動物病院
院長芹沢和也
住所〒143-0015 東京都大田区大森西4-17-20
TEL03-3768-7606
診療日年中無休(土・日・祝日も診療)
アクセス①京急本線「大森町駅」より徒歩10分(商店街を抜け東邦医大通りを左折、「東邦大学前」交差点)
アクセス②JR「蒲田駅」よりバス約4分
アクセス③JR「大森駅」よりバス約12分

参考文献

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