DIC(播種性血管内凝固症候群)とは?犬猫の命を脅かす「血が固まらなくなる病気」を獣医師が徹底解説
イース動物病院 院長 芹沢和也
はじめに
「DIC(ディーアイシー)」という言葉を聞いたことはありますか?
DICとは播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)の略称で、全身の血管の中で血の塊(血栓)が大量に作られ、その結果として逆に血が止まらなくなるという、非常に危険な状態のことです。
「血が固まりすぎる」と「血が固まらなくなる」という、一見すると矛盾した二つの現象が同時に起こるのがDICの特徴です。
この病気は単独では起こらず、必ず腫瘍・重症感染症・膵炎などの別の重大な病気が引き金となって発症します。私が日々の診療の中でDICを疑う場面は決して珍しくありません。重症の患者さんを診るたびに「DICに陥っていないか」を常に頭の片隅に置いています。
本記事では、飼い主様にもわかりやすいよう、DICの仕組み・症状・検査・治療・予後について、最新の獣医学的エビデンス(科学的根拠)に基づいて丁寧に解説します。
1. DICとはどんな病気か
正常な「血が固まる仕組み」をまず理解しましょう
DICを理解するには、まず体の中で「血がどのように固まるか」を知っておく必要があります。
私たちの体(犬や猫も同様)には、怪我をして出血したときに血を止める止血システムが備わっています。このシステムは大きく二段階で働きます。
まず、傷ついた血管の部分に血小板(けっしょうばん)という小さな細胞が集まって仮の栓をします(一次止血)。次に、血液の中に溶けている凝固因子(ぎょうこいんし)と呼ばれるタンパク質が次々と反応し、フィブリンという丈夫な網目構造を作って血栓を強固にします(二次止血)。
傷が治ったあとは、線溶系(せんようけい)と呼ばれる別のシステムが働いて、不要になった血栓を溶かします。この「固める力」と「溶かす力」のバランスが保たれることで、体は正常に機能しています。
DICでは何が起こるのか
DICでは、何らかの強い刺激(基礎疾患)によって、この精巧なバランスが崩れます。
第一段階:血栓が多発する
全身の微小な血管の中で、血を固める反応が制御不能に暴走します。体中の小さな血管に血栓が詰まり、腎臓・肺・肝臓・脳などの臓器への血流が滞ります。
第二段階:血が止まらなくなる
血栓を作るために大量の凝固因子と血小板が消費され、体内の在庫が底をついてしまいます。すると今度は、少しの傷でも血が止まらない状態になります。
この過程は、まだ体の防御機構が働いている初期段階である非顕性DIC(ひけんせいDIC)から、防御機構が破綻して血栓や出血が明らかになった顕性DIC(けんせいDIC)へと段階的に進行します 。
2. どんな病気がDICを引き起こすのか
DICは必ず「引き金となる基礎疾患」があります。犬・猫でDICを起こしやすい主な病気は以下の通りです 。
| 分類 | 主な基礎疾患 |
| 腫瘍(がん) | 血管肉腫、リンパ腫、乳腺腫瘍、肺腺がんなど |
| 重症感染症 | 敗血症、腹膜炎、子宮蓄膿症 |
| 炎症性疾患 | 重症膵炎、熱中症 |
| 免疫介在性疾患 | 免疫介在性溶血性貧血(IMHA)、免疫介在性血小板減少症 |
| 外傷・手術 | 重度の外傷、大きな手術後 |
| 寄生虫・感染症 | フィラリア(犬糸状虫症)、バベシア症 |
| 中毒 | ヘビ咬傷(マムシなど) |
特に犬では血管肉腫(けっかんにくしゅ)という悪性腫瘍との関連が深く、血管肉腫を持つ犬の多くに凝固異常が認められると報告されています。悪性固形腫瘍を持つ犬全体でのDIC発生率は約12.2%という研究もあります。
3. 臨床兆候(症状)
DICの症状は、どの段階にあるかによって大きく異なります。また、犬と猫でも症状の出方が違います。
初期のサイン(血栓が多発している段階)
この段階では、全身の微小血管に血栓が詰まっていますが、出血はまだ起きていません。症状は基礎疾患のものが前面に出ることが多く、DICとしての症状は非特異的です。
•何となく元気がない、ぐったりしている
•食欲がない、水を飲まない
•呼吸が荒い、浅く速い呼吸をしている(肺の微小血管に血栓が詰まるため)
•尿の量が減った(腎臓への血流が悪化するため)
•手足が冷たい、むくんでいる(末梢の血行不良)
進行したときのサイン(出血が始まった段階)
血を固める材料が使い果たされると、今度は出血が止まらなくなります。
•皮膚に赤い点々(点状出血)や青あざ(紫斑)ができる:特にお腹の皮膚に見られることが多いです
•歯茎から出血している、鼻血が出る
•尿が赤い(血尿)、便に血が混じる、吐血する
•注射や採血の跡から血が止まらない:動物病院で気づかれることが多い重要なサインです
•突然バッタリ倒れる(虚脱)、ぐったりしてショック状態になる
犬と猫の違い
| 犬 | 猫 | |
| 主な病態 | 出血型が主体 | 血栓型が主体 |
| 目立つ症状 | 皮膚の出血斑、血尿、血便など出血症状が前面に出る | 出血よりも腎不全・呼吸困難などの臓器障害が主体 |
| 発見のしやすさ | 出血症状があるため比較的気づきやすい | 症状が表に出にくく、発見が遅れることがある |
猫のDICに関する研究では、46頭中ほとんどの猫で出血よりも臓器障害が主な症状だったと報告されています。猫のDICは「見えにくい病気」であることを、飼い主様にもぜひ知っておいていただきたいと思います。
4. 鑑別疾患(似た症状を示す病気との見分け方)
出血傾向や血栓症を示す病気はDIC以外にもあります。適切な治療を行うためには、これらを正確に見分けることが非常に重要です。
免疫介在性血小板減少症(IMTP)
自分の免疫が誤って血小板を攻撃・破壊してしまう病気です。点状出血などの症状がDICと似ていますが、DICと違って「凝固因子の異常(血が固まるまでの時間の延長)」は通常見られません。ただし、重度のIMTPがDICを引き起こすこともあります。
殺鼠剤(ネズミ駆除剤)中毒
ビタミンKに依存する凝固因子の合成を妨げ、重篤な出血を引き起こします。DICとは異なり血小板数は正常であることが多く、ビタミンK1の投与で改善します。
急性外傷性コアグロパチー
交通事故などの大怪我による大量出血と組織損傷で起こる凝固異常です。DICとは発生メカニズムが一部異なり、止血と輸血が治療の優先事項となります。
重度の肝疾患
凝固因子の多くが肝臓で作られるため、肝不全でも出血傾向が出ます。DICの基礎疾患にもなり得るため、慎重な評価が必要です。
以下の表に、主な検査値の違いをまとめます。
| 疾患 | 血小板数 | 凝固時間(PT/aPTT) | D-ダイマー | アンチトロンビン | フィブリノーゲン |
| DIC(出血期) | 著しく低下 | 延長 | 著しく上昇 | 低下 | 低下 |
| 免疫介在性血小板減少症 | 著しく低下 | 正常 | 軽度上昇 | 正常 | 正常 |
| 殺鼠剤中毒 | 正常 | 著しく延長 | 軽度上昇 | 正常 | 正常 |
| 肝不全 | 軽度低下 | 延長 | 上昇 | 低下 | 低下 |
5. 検査と診断のアプローチ
DICには「これ一つで確定できる」という単一の検査(ゴールドスタンダード)が存在しません。そのため、当院では複数の検査を組み合わせ、点数化して総合的に診断します 。
ステップ 1:身体検査
まず全身状態を把握します。視診・触診・聴診を通じて以下の点を確認します。
•粘膜の色:貧血(蒼白)、黄疸(黄色)、点状出血(赤い斑点)がないか
•毛細血管再充満時間(CRT):歯茎を指で押して離したあと色が戻るまでの時間。正常は2秒以内で、延長はショックや循環不全を示します
•脈拍と血圧:ショック状態(脈が速くて弱い・血圧が低い)に陥っていないか
•お腹の触診:肝臓や脾臓の腫れ(腫瘍の存在を示唆)、腹水の有無
ステップ 2:一次検査(スクリーニング検査)
基礎疾患の特定と、DICの初期兆候を捉えるための検査です。
完全血球計算(CBC)
血小板数の減少を確認します。また、血液を薄く伸ばして顕微鏡で観察する「血液塗抹標本検査」では、微小血管内の血栓にぶつかって壊れた分裂赤血球(シストサイト)の有無を確認します。犬のDICの約71%、猫のDICの約67%でこの分裂赤血球が認められています。
血液生化学検査
腎臓(BUNやクレアチニンの上昇)や肝臓(ALTやASTの上昇)などの臓器障害の程度を評価します。
画像検査(X線・超音波検査)
腫瘍(特に血管肉腫)や膵炎、腹腔内の出血、肺の異常(血栓塞栓症による変化)などを探します。
ステップ 3:二次検査(凝固系パネル検査)
DICの診断に不可欠な、血液の固まりやすさを調べる特殊検査です 。
| 検査項目 | 何を調べるか | DICでの変化 | 犬での異常率 |
| プロトロンビン時間(PT) | 血が固まるまでの時間(外因系) | 延長する | 約80% |
| 活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT) | 血が固まるまでの時間(内因系) | 延長する | 約87% |
| フィブリノーゲン | 血液を固める「糊」の役割をするタンパク質の量 | 消費されて低下する | 約61% |
| D-ダイマー | 血栓が溶けたときにできる物質 | 著しく上昇する | 非常に感度が高い |
| アンチトロンビン(AT)活性 | 血が固まりすぎるのを防ぐ「ブレーキ」役の活性 | 消費されて低下する | 約85% |
ステップ 4:スコアリングシステムによる総合判断
Wiinberg ら(2010)は、犬のDICを診断するためのスコアリングシステムを開発し、感度91%・特異度90%という高い精度を報告しています。
また、Goggs ら(2018)の804頭の犬を対象とした大規模研究では、上記の6項目のうち3項目以上に異常がある場合に「顕性DIC」と診断する方法が、死亡率予測において最も高い精度(感度72.7%・特異度80.9%)を示したと報告されています。
当院のDIC診断基準
以下の6項目のうち3項目以上に異常が認められた場合、顕性DICと診断します。
1.血小板数の進行性低下(または著しい低値)
2.プロトロンビン時間(PT)の延長
3.活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)の延長
4.D-ダイマーの著しい上昇
5.フィブリノーゲンの低下
6.アンチトロンビン(AT)活性の低下
ステップ 5:粘弾性検査(最新の診断ツール)
近年、獣医療でも導入が進んでいる**TEG(血栓弾性描記法)やROTEM(回転式血栓弾性測定法)**と呼ばれる「粘弾性検査」があります。血液が固まり始めてから血栓が完成し、さらに溶けるまでの全過程をグラフとしてリアルタイムに表示できます。DICが「血栓が多発している段階(血栓型)」なのか「出血が止まらない段階(出血型)」なのかをより正確に把握でき、治療方針の決定に役立ちます 。
6. 治療の提案
DICの治療は非常に困難で、時間との勝負です。治療の最大の目標は「引き金となっている基礎疾患を取り除くこと」ですが、それと並行してDICそのものへの支持療法を行います 。
治療の優先順位
| 優先順位 | 治療内容 | 目的 |
| 第1優先 | 基礎疾患の同定と治療 | DICの根本原因を排除する |
| 第2優先 | 積極的な輸液療法(点滴) | 血流の改善、臓器への酸素供給の維持 |
| 第3優先 | 新鮮凍結血漿(FFP)の輸血 | 消費された凝固因子・アンチトロンビンの補充 |
| 第4優先 | ヘパリンの投与(血栓型の場合) | 新たな血栓形成の抑制 |
| 継続的に実施 | 凝固系パネルの連続測定 | 治療反応性の評価と方針の調整 |
基礎疾患の治療(最優先)
DICは必ず基礎疾患に続発するため、原因疾患を取り除かない限りDICは改善しません。
•腫瘍(血管肉腫など):外科的摘出が可能であれば速やかに行います
•敗血症(重度の細菌感染):血液培養を行い、起因菌に対する抗生物質を選択して積極的に投与します
•膵炎:絶食・絶水、輸液療法、痛み止めの投与を行います
•免疫介在性溶血性貧血(IMHA):免疫を抑える薬(プレドニゾロンなど)を開始します
輸液療法(血流の改善)
血栓によって滞った血流を改善し、臓器への酸素供給を維持するために、積極的な点滴(静脈内輸液)を行います。ショック状態の改善が最優先です。
新鮮凍結血漿(FFP)の輸血
出血傾向が強い場合や凝固因子が枯渇している場合、新鮮凍結血漿(FFP:Fresh Frozen Plasma)の輸血を行います。FFPには凝固因子とアンチトロンビンが豊富に含まれており、消費されたこれらを補充できます。推奨投与量は体重1kgあたり6〜20 mLとされています。重度の貧血を伴う場合は、濃厚赤血球の輸血も行います。
ヘパリンの投与(抗凝固療法)
血栓が多発している段階(特に非顕性DICの段階)では、これ以上血栓が作られるのを防ぐためにヘパリンという「血をサラサラにする薬(抗凝固薬)」を使用することがあります。ヘパリンはアンチトロンビン(AT)と組み合わさって初めて効果を発揮するため、AT活性が低下している場合はFFPの輸血と組み合わせて使用します。出血リスクを高める可能性もあるため、使用は慎重に判断します 。
7. 予後(治療後の見通し)
DICの予後は、残念ながら非常に厳しい(慎重〜不良)と言わざるを得ません。しかし、早期発見・早期治療によって生存率を高めることは可能です。
統計データ:生存率と死亡率
Goggs ら(2018)が犬804頭を対象に行った大規模研究では、顕性DICと診断された犬の死亡率は62.5%に達したと報告されています。一方、DICと診断されなかった犬の死亡率は12.9%であり、DICの診断は死亡リスクを約5倍高めることが示されました。
猫のDICに関する研究(Estrin ら, 2006)では、46頭中生存したのはわずか3頭(生存率7%)という非常に厳しい結果が報告されています。
予後を左右する因子
予後を悪化させる因子(ネガティブな因子)
•D-ダイマーが著しく上昇している
•アンチトロンビン(AT)活性が重度に低下している(50%未満)
•すでに複数の臓器が機能不全に陥っている(多臓器不全)
•基礎疾患が進行性の悪性腫瘍(血管肉腫など)や重度の敗血症である
•顕性DICの段階まで進行してから治療を開始した
予後を改善させる因子(ポジティブな因子)
•基礎疾患が治療に反応しやすいもの(早期に発見された免疫介在性疾患、外科的に完全切除可能な腫瘍など)
•出血や臓器障害が起こる前の「非顕性DIC」の段階で早期発見・早期介入できた
•アンチトロンビン(AT)活性が比較的保たれている(70%以上)
•24時間体制の集中治療が受けられる環境にある
退院後の自宅ケアとQOL(生活の質)の維持
DICを乗り越えて退院できた場合でも、基礎疾患の継続的な治療が必要です。飼い主様には、以下の点に注意していただくようお伝えしています。
毎日の出血サインのチェック
歯茎の色(正常はサーモンピンク色)、皮膚の青あざや赤い斑点、尿や便の色の変化(血尿・血便)を毎日観察してください。少しでも異常を感じたら、すぐにご連絡ください。
安静の保持
激しい運動は避け、怪我をしない環境を整えてください。退院後しばらくは、散歩も短時間に留めることをお勧めします。
定期的な血液検査
血小板数や凝固系の数値(PT・aPTT・D-ダイマー・AT活性)を定期的にモニタリングし、再発の兆候を早期に捉えることが重要です。
ストレスの軽減
静かで快適な環境を提供し、ペットの精神的な安定を保つことがQOLの維持につながります。
まとめと受診のご案内
DIC(播種性血管内凝固症候群)は、体の中で「血栓の多発」と「大出血」が同時に進行する、非常に複雑で危険な状態です。それ単独で起こる病気ではないため、背後にある重大な病気(腫瘍・重症感染症・膵炎など)にいち早く気づき、対処することが何よりも重要です。
DICの診断には単一の確定検査がなく、複数の血液検査を組み合わせたスコアリングによる総合判断が必要です。治療は基礎疾患の排除を最優先とし、輸液療法・血液成分輸血・抗凝固療法を組み合わせた集中的な支持療法が求められます。予後は厳しく、特に顕性DICでは死亡率が60%を超えることもありますが、早期発見・早期治療が予後改善の最大の鍵です。
「いつもより呼吸が荒い」「お腹に赤い斑点がある」「血が止まりにくい」——そんな些細な変化が、DICのサインかもしれません。少しでも異常を感じたら、迷わずすぐに動物病院を受診してください。
イース動物病院では、最新の知見に基づいた迅速な検査と、集中治療による全身管理で、大切なご家族の命を救うために全力を尽くします。不安なことがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
参考文献
[8] DVM360. (n.d. ). DIC: Diagnosing and treating a complex disorder.

