【大田区・大森の動物病院】犬猫の角膜潰瘍(目の傷)を獣医師が徹底解説
はじめに
大田区・大森・蒲田エリアの飼い主の皆さま、こんにちは。イース動物病院院長の芹沢和也です。
今回は、当院の眼科診療でも非常に遭遇頻度が高い「角膜潰瘍(かくまくかいよう)」について解説します。角膜潰瘍とは、目の表面にある透明な膜(角膜)に傷がつき、えぐれてしまう状態を指します。イギリスの一次診療における大規模な疫学調査では、犬全体の約0.8%が1年間に角膜潰瘍を発症すると報告されており、決して珍しい病気ではありません 。特にパグやフレンチブルドッグなどの短頭種では発症リスクが非常に高く、注意が必要です 。本記事では、科学的根拠(エビデンス)に基づき、飼い主の皆さまがご自宅で気づける初期症状から、当院で行っている最新の検査・治療法までを詳しく解説いたします。愛犬・愛猫の目を守るための知識として、ぜひお役立てください。
1. 臨床兆候
角膜には知覚神経が豊富に分布しているため、傷がつくと強い痛み(眼痛)を伴います。飼い主の皆さまがご自宅で気づける初期症状から、進行時の重篤な症状までを発症頻度の高い順に解説します。
1-1. 早期に現れる症状
最も早く現れるサインは「痛みをかばう仕草」です。目をしょぼつかせる(眼瞼痙攣)、涙が多くなる(流涙)、前足で目をこすったり、床や家具に顔をこすりつけたりする行動が見られます。また、明るい光を眩しがる(羞明)こともあります。これらの症状は、角膜の表面(上皮)に浅い傷がついた段階から顕著に現れます 。
1-2. 進行に伴い現れる症状
傷が角膜の深い層(実質層)にまで達すると、目の表面が白く濁って見えるようになります(角膜浮腫)。また、白目部分が赤く充血し(結膜充血)、黄色や緑色のドロッとした目やに(膿性眼脂)が増加します。慢性化すると、傷を治そうとして白目から黒目に向かって血管が伸びてくる(角膜新生血管)こともあります 。
1-3. 緊急性の高い症状(すぐに受診すべきサイン)
角膜が溶けるように深くえぐれ、一番奥の薄い膜(デスメ膜)だけが残った状態(デスメ膜瘤)や、角膜に穴が開いてしまった状態(角膜穿孔)は、失明に直結する眼科救急疾患です。目の表面にゼリー状の突出物が見える、瞳孔(黒目の中心)の形がいびつになっている、眼球がしぼんだように見える場合は、一刻も早い受診が必要です 。
▼ 【図表①:臨床兆候の出現頻度】
| 臨床兆候 | 出現頻度(%) | 飼い主が気づくポイント |
| 疼痛(眼をこする・しょぼつかせる) | 約46% | いつもより目を細める、前足で目を気にする |
| 流涙(涙目) | 約40% | 目の周りの毛が常に濡れている |
| 角膜浮腫(黒目が白く濁る) | 約35% | 黒目の表面がすりガラスのように曇って見える |
| 結膜充血(白目が赤い) | 約30% | 白目部分の血管が太く赤く目立つ |
| 膿性眼脂(黄色・緑色の目やに) | 約25% | 拭いてもすぐにドロッとした目やにが出る |
※イギリスの一次診療データおよび一般的な臨床所見に基づく
2. 鑑別疾患
目が赤い、しょぼつかせる、白く濁るといった症状は、角膜潰瘍以外の眼科疾患でも見られます。適切な治療を行うためには、これらの疾患と正確に区別(鑑別)することが極めて重要です。
▼ 【図表②:主要な鑑別疾患の比較】
| 疾患名 | 共通する症状 | 本疾患との主な違い | 鑑別に有用な検査 |
| 乾性角結膜炎(ドライアイ) | 結膜充血、眼脂、角膜混濁 | 涙の量が極端に少ない。潰瘍を併発することもある | シルマー涙液量検査 |
| ぶどう膜炎 | 疼痛、羞明、結膜充血、角膜浮腫 | 角膜に傷はない。瞳孔が縮み、眼圧が低下する | スリットランプ検査、眼圧測定 |
| 緑内障 | 疼痛、結膜充血、角膜浮腫 | 角膜に傷はない。瞳孔が開き、眼圧が異常に高い | 眼圧測定 |
| 角膜内皮変性症 | 角膜浮腫(白濁) | 痛みを伴わない。高齢犬に多い | スリットランプ検査、眼圧測定 |
※角膜潰瘍とぶどう膜炎は併発することが多く(反射性ぶどう膜炎)、慎重な評価が必要です 。
3. 検査と診断アプローチ
角膜潰瘍の診断と原因究明のため、当院では以下の順序で体系的な眼科研検査を実施しています。
▼ 【図表③:診断フローチャート】
1.問診・視診(症状の経過、外傷の有無、犬種・猫種の確認)
2.シルマー涙液量検査(ドライアイの除外)※点眼麻酔前に行う
3.眼圧測定(緑内障・ぶどう膜炎の評価)
4.スリットランプ生体顕微鏡検査(前眼部の詳細観察、異所性睫毛などの確認)
5.フルオレセイン染色検査(角膜潰瘍の確定診断)
6.(必要に応じて)細胞診・細菌培養検査、超音波検査
3-1. 身体検査のポイント
まずは明るい部屋で、目の周りの構造を観察します。まぶたが内側に巻き込んでいないか(眼瞼内反症)、異常な場所にまつ毛が生えていないか(異所性睫毛・重生睫毛)、眼球が突出しすぎていないかを確認します。これらは角膜に物理的な刺激を与え、潰瘍を引き起こす主な原因となります 。
3-2. 一次検査
■ フルオレセイン染色検査とスリットランプ検査
角膜潰瘍の診断において最も重要な検査が「フルオレセイン染色」です。オレンジ色の特殊な染色液を点眼すると、角膜上皮が剥がれて露出した実質層が鮮やかな緑色に染まります。これにより、潰瘍の広がりや形状を正確に把握できます。続いて「スリットランプ(細隙灯顕微鏡)」を用いて、光の帯を角膜に当て、潰瘍の深さや角膜の厚み、前眼房(角膜と虹彩の間の空間)の炎症の程度を拡大して詳細に観察します 。
■ X線(レントゲン)検査所見
角膜潰瘍自体はX線検査では直接描出されませんが、外傷が疑われる場合や、眼球突出がある場合に実施します。
•推奨撮影体位と部位:頭部(背腹位、外側位、斜位)
•本疾患で特徴的なX線所見:角膜潰瘍のみでは異常所見なし。眼窩骨折や異物、副鼻腔の腫瘍など、眼球を圧迫する基礎疾患の有無を確認します。
•正常との比較・見落としやすいポイント:眼窩内の微小な骨折線や不透過性異物を見落とさないよう注意が必要です。
■ 超音波(エコー)検査所見
潰瘍が深く、角膜の白濁が強くて眼内の観察が困難な場合や、デスメ膜瘤が疑われる場合に、Bモード超音波検査が非常に有用です。
•評価部位・プローブの当て方:点眼麻酔後、眼球表面または閉じた眼瞼の上から高周波プローブを優しく当てて観察します。
•本疾患で特徴的なエコー所見:正常な角膜は均一な薄い高エコー(白く明るく見える部分)の層として描出されます。潰瘍部では、角膜表面の連続性が途絶え、角膜の菲薄化(薄くなること)が確認できます。デスメ膜瘤では、角膜が極度に薄くなり、前眼房(無エコー=暗く黒っぽく見える部分)との境界が突出して見えることがあります。
•正常との比較・見落としやすいポイント:プローブを強く押し当てると、脆弱になった角膜が穿孔する危険があるため、検査には熟練の技術が必要です。
▼ 【図表④:各検査の主要所見サマリー】
| 検査の種類 | 主要な所見 | 臨床的意義 |
| シルマー涙液量検査 | 涙液量の低下(15mm/分未満) | 乾性角結膜炎(ドライアイ)の診断 |
| 眼圧測定 | 眼圧の低下(10mmHg未満) | 反射性ぶどう膜炎の併発を示唆 |
| フルオレセイン染色 | 角膜表面の緑色染色 | 角膜潰瘍の確定診断。潰瘍の広がりを評価 |
| スリットランプ検査 | 角膜実質の欠損、細胞浸潤、浮腫 | 潰瘍の深さ、感染の有無、原因(異物等)の特定 |
| 超音波検査 | 角膜の菲薄化、前眼房内の高エコー性浮遊物 | 深部潰瘍の評価、眼内炎や出血の確認 |
3-3. 二次検査・確定診断のための特殊検査
感染が疑われる場合(角膜が溶けるように白く濁っている、重度の眼脂がある等)は、抗菌薬を投与する前に角膜表面を専用の綿棒で優しくこすり、「細菌培養および薬剤感受性試験」を実施します。また、猫の場合は、猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)が角膜潰瘍の主要な原因となるため、PCR検査でウイルスの有無を確認することがあります 。
4. 治療の提案
角膜潰瘍の治療は、潰瘍の深さと原因(感染の有無など)によって大きく異なります。最新のエビデンスに基づいた標準治療と、当院で推奨する治療プロトコルをご提案します。
4-1. 内科的治療
浅い表層性の潰瘍であれば、内科的治療で良好に治癒します。感染を防ぐための広域スペクトル抗菌薬(ネオマイシン・ポリミキシンB・バシトラシン配合剤など)の点眼と、痛みを和らげ瞳孔を開かせるアトロピン点眼を行います。また、目をこすって悪化させないよう、必ずエリザベスカラーを装着していただきます 。
治りにくい特殊な浅い潰瘍である「自発性慢性角膜上皮欠損(SCCED:通称ボクサー潰瘍)」の場合は、点眼薬だけでは治りません。点眼麻酔下で、不良な角膜上皮を専用の綿棒でこすり落とす(デブリードマン)、あるいはダイヤモンドバーという器具で角膜表面を優しく研磨する(DBD)処置が必要です。これにより、約85〜90%の確率で治癒に向かいます 。
4-2. 外科的治療の適応
潰瘍が角膜の厚さの半分以上に達する深部潰瘍や、角膜が溶け出す融解性潰瘍(角膜軟化症)、デスメ膜瘤、角膜穿孔の場合は、内科的治療だけでは眼球を温存できない可能性が高く、外科手術が適応となります 。
4-3. 支持療法・補助療法
融解性潰瘍に対しては、角膜を溶かす酵素(コラゲナーゼ)の働きを阻害するため、患者様自身の血液から作製した「自家血清点眼」や、EDTA点眼を頻回に使用します 。また、近年では「PACK-CXL(光活性化クロモフォア角膜コラーゲン架橋)」という、紫外線とリボフラビンを用いて角膜の強度を上げ、細菌を殺す最新の治療法も高い有効性が報告されています 。
▼ 【図表⑤:推奨治療プロトコル】
| 治療の種類 | 薬剤・処置名 | 用量・用法 | 投与期間の目安 | エビデンスレベル |
| 表層性潰瘍の基本治療 | 広域抗菌薬点眼(ネオポリバク等) | 1日3〜4回 点眼 | 潰瘍治癒まで(通常5〜7日) | 高(感受性96%) |
| 疼痛管理 | アトロピン点眼(1%) | 1日1〜2回 点眼 | 縮瞳・痛みが改善するまで | 高 |
| 融解性潰瘍の補助療法 | 自家血清点眼 | 1日4〜6回以上 頻回点眼 | 角膜の融解が止まるまで | 高(抗コラゲナーゼ作用) |
| SCCED(不治性潰瘍) | ダイヤモンドバーデブリードマン | 点眼麻酔下で単回処置 | 処置後、コンタクトレンズ装用 | 高(成功率88%) |
| 猫のFHV-1関連潰瘍 | 抗ウイルス薬点眼(ファムシクロビル等) | 獣医師の指示通り | 症状改善後も数週間継続 | 高 |
5. 予後
角膜潰瘍の予後(今後の見通し)は、潰瘍の深さ、感染の有無、基礎疾患の有無によって大きく左右されます。
5-1. 治療反応性と生存期間
単純な表層性潰瘍であれば、適切な点眼治療とエリザベスカラーの装着により、ほぼ100%が3〜7日以内に治癒し、視力への影響も残りません 。
しかし、慢性腎臓病(CKD)を患っている犬では、健康な犬に比べて治癒までの期間が有意に長くなる(平均21日 vs 11日)ことが報告されています。これは、全身状態の悪化や涙液量の減少が角膜の修復を妨げるためと考えられています 。
5-2. 予後を左右する因子
▼ 【図表⑥:予後因子の比較】
| 分類 | 予後因子 | 根拠となる論文・データ |
| 良好な予後因子 | 若齢、単純な表層性潰瘍、早期の治療開始 | 治癒率ほぼ100%、3〜5日で上皮化完了 |
| 不良な予後因子 | パグやブルドッグなどの短頭種 | 眼球突出等により潰瘍が急速に悪化しやすい |
| 不良な予後因子 | 慢性腎臓病(CKD)の併発 | 深部潰瘍の治癒率が著しく低下(25%) |
| 不良な予後因子 | 細菌感染・融解性潰瘍の併発 | 角膜穿孔や失明のリスクが極めて高い |
5-3. 飼い主が自宅でできるケアとQOL(生活の質)の維持
角膜潰瘍の治療において、飼い主の皆さまのご協力は不可欠です。最も重要なのは「目をこすらせないこと」です。治りかけの時期は目がかゆくなることが多く、一瞬の摩擦でせっかく治りかけた角膜が再び大きく剥がれてしまいます。獣医師の許可が出るまで、エリザベスカラーは24時間絶対に外さないでください。また、処方された点眼薬は指示通りの回数を守り、複数の目薬を差す場合は、成分が洗い流されないよう必ず5分以上の間隔を空けて点眼してください。
まとめ・イース動物病院へのご相談
角膜潰瘍は、初期の段階で適切に治療を行えば後遺症なく治癒する病気です。しかし、発見が遅れたり、目をこすってしまったりすると、数日のうちに角膜に穴が開き、失明に至る恐ろしい側面も持っています。
1.目をしょぼつかせる、涙が多い、白目が赤い といった症状を見逃さない。
2.パグ、フレンチブルドッグ、シーズー などの短頭種は特に注意が必要。
3.治療中は エリザベスカラーを絶対に外さない ことが完治への近道。
🏥 イース動物病院(大田区大森西)へのご相談はお気軽に
大田区・大森・蒲田・品川・川崎エリアで愛犬・愛猫の目の異常(しょぼつく、赤い、白いなど)でご不安なことがあれば、どうぞお気軽にイース動物病院へご相談ください。角膜潰瘍は時間との勝負です。「少し様子を見よう」が取り返しのつかない事態を招くことがあります。
当院は 土曜・日曜・祝日も年中無休で診療 しており、お仕事のある平日でも週末でも、目のトラブルに迅速に対応いたします。
| 項目 | 内容 |
| 病院名 | イース動物病院 |
| 院長 | 芹沢和也 |
| 住所 | 〒143-0015 東京都大田区大森西4-17-20 |
| TEL | 03-3768-7606 |
| 診療日 | 年中無休(土・日・祝日も診療) |
| アクセス① | 京急本線「大森町駅」より徒歩10分(商店街を抜け東邦医大通りを左折、「東邦大学前」交差点) |
| アクセス② | JR「蒲田駅」よりバス約4分 |
| アクセス③ | JR「大森駅」よりバス約12分 |
参考文献
主要論文(引用数上位)
[4] Stiles J (2003) "Feline herpesvirus" Clinical Techniques in Small Animal Practice 18(3):178-185.
[11] Hamor RE (2023) "The Cornea in Animals" Merck Veterinary Manual.
[12] (2005) "Spontaneous chronic corneal epithelial defects in dogs: a review" JAAHA 41(3):158-165.
[13] Williams D (2014) "Obvious ophthalmology: corneal ulceration" Vetcpd.
