🩺命を守る手術 ― 犬の子宮蓄膿症と避妊手術の本当の意味


はじめに

こんにちは!東京都大田区大森のイース動物病院です。

「元気がない」「ごはんを食べない」「なんとなく様子がおかしい」――
そんな漠然とした不調が、実は命に関わる病気のサインであることがあります。

その代表的なもののひとつが 「子宮蓄膿症(しきゅうちくのうしょう)」 です。

犬の子宮蓄膿症は、避妊手術をしていないメス犬に起こる、命に関わる重大な病気です。
早期発見・治療が遅れると、たとえ若い犬でも亡くなってしまうことがあります。

今回は、子宮蓄膿症の原因や症状、治療、そして予防としての避妊手術の重要性について詳しくお話しします。


子宮蓄膿症とは?

子宮蓄膿症とは、子宮の中に膿(うみ)がたまってしまう病気です。

通常、子宮は妊娠していないときには閉じた状態にありますが、発情周期に伴うホルモンの影響で、子宮内膜が分厚くなったり、細菌が侵入しやすい環境になったりします。

このとき、大腸菌などの細菌が子宮内に入り込み、炎症を起こして膿がたまるのです。
膿がたまることで子宮が風船のように膨らみ、最悪の場合は破裂して腹腔内に膿が広がり、敗血症や腹膜炎を引き起こします。

子宮蓄膿症は、発情後1〜2か月以内に発症することが多く、特に6歳以上の中高齢犬で多く見られますが、若い犬でも発症することがあります。


子宮蓄膿症の症状

症状は、子宮頸管が開いているか閉じているかで異なります。

◎ 開放型(おりものが出るタイプ)

・陰部から膿や血が混じったおりものが出る
・陰部をしきりになめる
・食欲が落ちる、元気がない
・発熱
・お水をよく飲む、おしっこの量が増える

◎ 閉鎖型(おりものが出ないタイプ)

・外から膿が出ないため気づきにくい
・ぐったりして元気がない
・食欲廃絶
・お腹が膨らんで見える
・高熱、脱水、ショック状態

閉鎖型は特に危険で、短時間で命に関わる状態になることがあります。


診断方法

動物病院では次のような検査を行います。

・身体検査(お腹の張りや痛み、発熱の確認)
・血液検査(白血球の増加、腎臓・肝臓の異常)
・超音波検査(子宮内の液体の有無)
・レントゲン検査(子宮の拡張の確認)

エコー検査で「袋状に膨らんだ子宮の中に液体がたまっている」のが見つかれば、ほぼ確定診断となります。


治療方法

治療の基本は、**緊急手術(子宮・卵巣の摘出)**です。

膿でパンパンに腫れた子宮をそのままにしておくと破裂の危険があるため、できるだけ早く摘出します。
通常の避妊手術と方法は似ていますが、腫れた子宮を扱うため出血や合併症のリスクが高く、手術時間も長くなります。

軽度の場合に薬で治療を試みることもありますが、再発率が高く、根本治療にはなりません。
そのため、基本的には外科的摘出が唯一の確実な治療法です。


命を守るには「早期発見」と「予防」

子宮蓄膿症は、発症してしまうと緊急対応が必要です。
しかし、発症前に避妊手術をしていれば、100%防ぐことができる病気です。

避妊手術を行った犬は、子宮も卵巣も取り除かれているため、蓄膿症はもちろん、子宮の腫瘍や卵巣の異常、ホルモン関連の乳腺腫瘍などのリスクも減ります。


避妊手術のタイミング

避妊手術は、**初めての発情が来る前(生後6〜10か月頃)**に行うのが理想です。
ホルモンの影響を受ける前に手術を行うことで、乳腺腫瘍の発生率も大幅に下がることが分かっています。

もちろん、成犬になってからでも手術は可能です。
ただし、年齢が上がるほど麻酔リスクや回復時間が増えるため、健康なうちに手術を受けることが大切です。


よくある質問

Q. 「かわいそう」だから手術したくないのですが……
→ 避妊手術は「かわいそうな手術」ではありません。
発情や偽妊娠、子宮蓄膿症などのストレスや命の危険から守るための、命を守る手術です。

Q. シニア犬でも手術できますか?
→ 体調が安定していれば10歳を超えても可能です。
ただし、全身検査で麻酔リスクを確認してから行います。

Q. 費用はどのくらい?
→ 避妊手術は数万円前後。
子宮蓄膿症の緊急手術になると、入院・点滴・手術費を含めて10万円以上かかることもあります。
費用面でも、予防手術の方が圧倒的に負担が少ないのです。


動物病院からのメッセージ

「もっと早く来ていれば助けられたかもしれない」
そんなケースが、決して少なくありません。

初期の段階では「おりものが少し出るだけ」で気づかれないこともあります。
「なんとなく元気がない」「お水をよく飲む」――
そんな小さなサインを見逃さないでください。

そして、まだ発症していない健康な子であれば、
避妊手術を受けることで確実に防ぐことができます。

手術は一度きり。
その決断が、愛犬の一生を守ることにつながります。


まとめ

犬の子宮蓄膿症は、避妊手術で100%予防できる命に関わる病気です。

・発情に伴うホルモン変化で子宮が感染しやすくなる
・症状は「元気がない」「おりもの」「多飲多尿」など
・治療は子宮・卵巣の摘出が基本
・早期発見と予防が最も大切

大切な家族の命を守るために、
どうか一度、避妊手術について考えてみてください。
ご不安なことがあれば、いつでもイース動物病院にご相談ください。