猫の腎臓に腫瘍が見つかったら|片側の腎臓腫瘍で考える病気・検査・治療・予後を獣医師が解説

作成:イース動物病院 院長 芹沢和也

猫の腎臓に腫瘍やしこりが見つかった場合、腎癌、腎リンパ腫、転移性腫瘍、炎症、嚢胞などを鑑別する必要があります。片側の腎臓腫瘍で行うべき検査、治療選択肢、手術や抗がん剤治療、予後の考え方をイース動物病院の獣医師がわかりやすく解説します。

導入:猫の腎臓に「腫瘍かもしれない」と言われた飼い主様へ

健康診断や腹部超音波検査で、猫の腎臓に「しこり」「腫瘤」「腫瘍の疑い」「腎臓が腫れている」と言われると、多くの飼い主様は強い不安を感じられると思います。特に高齢の猫では、慢性腎臓病が多いこともあり、「腎臓に腫瘍があるなら、もう治療は難しいのではないか」と考えてしまう方も少なくありません。

しかし、猫の腎臓に腫瘤が見つかった場合でも、すぐに一つの病気に決めつけることはできません。腎臓そのものから発生する腎癌、血液のがんであるリンパ腫、他の臓器からの転移、感染や炎症、嚢胞、血腫、腎盂や尿管の病気など、複数の病気が似た見え方をするためです。

特に重要なのは、腎癌と腎リンパ腫では治療方針が大きく異なるという点です。片側の腎臓に孤立した腫瘤があり、転移がなく、反対側の腎臓が十分に働いている場合には、片側腎摘出によって長期生存が期待できることがあります。 一方、腎リンパ腫では、手術よりも抗がん剤治療が中心となり、治療に反応すると腎臓の腫れや腎機能の異常が改善する例もあります。

この記事では、猫の片側の腎臓腫瘍で考えるべき鑑別疾患、検査の進め方、治療選択肢、予後の見方、そして受診のタイミングを、飼い主様にわかりやすく解説します。

猫の腎臓腫瘍とは何か

腎臓にできる「腫瘍」と「腫瘤」は同じではありません

動物病院で「腎臓に腫瘤があります」と説明された場合、それは画像検査上、腎臓の中または周囲に通常とは異なるかたまりが見えるという意味です。腫瘤が必ずしも悪性腫瘍であるとは限りません。炎症、膿瘍、血腫、嚢胞、肉芽腫、腎盂の拡張なども、画像上は腫瘍のように見えることがあります。

一方で、「腫瘍」という言葉は、細胞が異常に増殖してできた病変を指します。腫瘍には良性と悪性がありますが、猫の腎臓に見つかる腫瘍では、リンパ腫や腎癌などの悪性疾患が重要な鑑別になります。

猫の腎臓腫瘍で多い病気

猫の腎臓腫瘍では、腎リンパ腫が最も多いとされています。2026年に報告された猫187例の多施設研究では、腎腫瘍の内訳としてリンパ腫が63%、癌腫が28.5%、肉腫が5%と報告されています。 つまり、猫の腎臓に腫瘍性病変が疑われる場合、リンパ腫を必ず鑑別に入れる必要があります。

ただし、今回のように片側の腎臓だけに単一の腫瘤がある場合には、腎細胞癌や腎腺癌などの原発性腎癌も重要です。2025年のCT研究では、猫の腎細胞癌は93.3%が片側性で、73.3%が膨張性に発育し、不均一な造影を示すことが多いと報告されています。

腎臓に見つかる主な病気特徴治療の方向性
腎リンパ腫猫の腎腫瘍で多い病気です。両側性のことが多い一方、片側性に見える場合もあります。抗がん剤治療が中心です。
腎細胞癌・腎腺癌片側性・単一腫瘤として見つかることがあります。条件が合えば片側腎摘出を検討します。
転移性腫瘍他の臓器の腫瘍が腎臓に転移することがあります。原発腫瘍と転移範囲に応じて判断します。
腎盂腎炎・腎膿瘍感染や炎症が腫瘍のように見えることがあります。抗菌薬、培養検査、必要に応じて排膿を行います。
嚢胞・血腫・梗塞画像上、腫瘤と紛らわしいことがあります。経過観察、追加画像検査、原因治療を行います。
FIPなどの全身性炎症性疾患腎臓の周囲や被膜下に変化が出ることがあります。全身状態と検査結果から治療方針を決めます。

片側の腎臓腫瘍で特に考える鑑別疾患

腎細胞癌・腎腺癌などの原発性腎癌

片側の腎臓に一つの腫瘤が見つかった場合、まず重要になるのが腎細胞癌や腎腺癌などの原発性腎癌です。原発性腎癌は、腎臓自体の細胞から発生する悪性腫瘍です。猫では犬ほど頻度が多い病気ではありませんが、高齢猫で片側性の腎腫瘤として見つかる場合には重要な病気です。

腎癌が疑われる場合に大切なのは、腫瘍が片側の腎臓に限局しているか、肺や肝臓、リンパ節、腹膜などに転移していないか、腎静脈や大血管に入り込んでいないか、そして反対側の腎臓が十分に機能しているかを確認することです。これらの条件が整えば、片側腎摘出が根治的な治療選択肢になります。

腎リンパ腫

猫の腎臓腫瘍で非常に重要なのが腎リンパ腫です。リンパ腫はリンパ球という免疫細胞が腫瘍化する病気で、腎臓だけでなく、消化管、リンパ節、肝臓、脾臓、骨髄などに病変を伴うことがあります。

腎リンパ腫では、両側の腎臓が大きくなる、腎臓の周囲に低エコーの帯状変化が見える、複数の結節がある、他の臓器にも病変がある、といった所見が参考になります。 ただし、リンパ腫でも片側性に見える場合があるため、画像だけで腎癌と断定することはできません。

リンパ腫の場合、治療の中心は抗がん剤治療です。腎臓を手術で取ることが有利とは限らず、むしろ全身性疾患として治療する必要があります。2025年の研究では、腎リンパ腫で多剤併用化学療法を受けた猫の多くで、腎腫大や画像上の病変、高窒素血症が改善したと報告されています。

転移性腫瘍

腎臓に見つかった腫瘤が、腎臓から発生したものではなく、他の臓器の腫瘍が腎臓に転移したものである可能性もあります。乳腺腫瘍、肺腫瘍、消化管腫瘍、膵臓や肝胆道系の腫瘍などがある場合には、腎臓病変が転移である可能性を考えます。

この場合、治療方針は腎臓だけで決まりません。原発腫瘍の種類、転移の数、全身状態、痛みや食欲の状態を含めて、積極治療と緩和治療のバランスを検討します。

腎盂腎炎・腎膿瘍・肉芽腫性炎症

感染や炎症でも、腎臓に腫瘤のような病変が見えることがあります。腎盂腎炎や腎膿瘍では、発熱、元気消失、食欲低下、白血球数の増加、尿検査異常、血尿、膿尿、腎臓周囲の痛みなどがみられることがあります。

炎症性疾患であれば、抗菌薬や尿培養に基づいた治療によって改善する可能性があります。反対に、腫瘍を感染と誤って治療してしまうと、適切な治療のタイミングを逃す可能性があります。そのため、尿検査、尿培養、血液検査、超音波検査、必要に応じた細胞診を組み合わせて判断します。

嚢胞・血腫・梗塞・慢性腎臓病に伴う形の変化

猫では慢性腎臓病が多く、腎臓の形が不整になったり、嚢胞ができたりすることがあります。また、出血による血腫、血流障害による梗塞、過去の炎症による瘢痕が腫瘤のように見える場合もあります。

このような病変では、すぐに手術や抗がん剤治療を行うのではなく、画像の再評価、血流評価、経時的な大きさの変化、細胞診などを使って、腫瘍性か非腫瘍性かを慎重に見極めます。

FIPなどの全身性炎症性疾患

猫伝染性腹膜炎、いわゆるFIPなどの全身性炎症性疾患でも、腎臓の腫大や腎被膜下の変化がみられることがあります。腎被膜下の低エコー帯はリンパ腫を示唆する所見として知られていますが、近年では癌腫や転移性病変でも同様の変化が報告されています。

そのため、「腎臓の周囲に帯状の変化があるからリンパ腫」と単純に決めるのではなく、年齢、発熱、腹水、血液検査、蛋白分画、コロナウイルス関連検査、細胞診などを総合して判断します。

猫の腎臓腫瘍でみられる症状

初期は無症状のことがあります

猫の腎臓腫瘍は、初期には目立った症状がないことがあります。健康診断の血液検査や、別の目的で行った腹部超音波検査で偶然見つかることもあります。

特に猫は体調不良を隠す傾向があり、食欲が少し落ちた、寝ている時間が増えた、体重が少し減ったといった変化が、実は腎臓腫瘍や全身性疾患のサインであることがあります。

飼い主様が気づきやすい症状

腎臓腫瘍でみられる症状は、腫瘍そのものによる症状、腎機能低下による症状、全身性腫瘍による症状、痛みや炎症による症状に分けて考えると理解しやすくなります。

症状考えられる理由
体重減少腫瘍による消耗、食欲低下、慢性炎症、腎機能低下が関係します。
食欲低下腎毒素の蓄積、吐き気、痛み、腫瘍性炎症が関係します。
元気がない貧血、脱水、痛み、発熱、腎不全、腫瘍の進行が関係します。
嘔吐・吐き気腎機能低下、尿毒症、消化管病変、薬剤の影響が考えられます。
多飲多尿腎臓の濃縮力低下や慢性腎臓病の併発でみられます。
血尿腎臓、腎盂、尿管、膀胱の病変で起こることがあります。
腹部のしこり・お腹の張り腎臓が大きくなって触れることがあります。
足の痛み・跛行まれに腎癌に伴う肥大性骨症で起こることがあります。

猫の腎癌36例を対象にした研究では、来院時の主訴として体重減少が36.1%、食欲低下が30.6%と報告されています。 つまり、腎臓腫瘍の症状は「腎臓らしい症状」だけではなく、体重減少や食欲低下のような一般的な変化として現れることがあります。

診断のために行う検査

まず全身状態と腎機能を確認します

腎臓腫瘍が疑われる場合、最初に確認すべきことは、猫が現在どの程度治療に耐えられる状態にあるかです。特に高齢猫では、腫瘍そのものだけでなく、慢性腎臓病、心臓病、高血圧、甲状腺機能亢進症、貧血、脱水などを併発していることがあります。

血液検査では、BUN、クレアチニン、SDMA、リン、電解質、肝酵素、総蛋白、アルブミン、血糖、白血球数、赤血球数、血小板などを確認します。尿検査では、尿比重、蛋白尿、血尿、膿尿、細菌の有無を調べます。尿培養は、腎盂腎炎や尿路感染が疑われる場合に重要です。

腹部超音波検査

腹部超音波検査は、腎臓腫瘤の評価において非常に重要です。腎臓の大きさ、左右差、腫瘤の形、内部構造、血流、腎盂の拡張、腎周囲の変化、腹水、肝臓・脾臓・リンパ節・消化管の病変を確認できます。

2026年の研究では、腎リンパ腫では両側性病変、他臓器病変、低エコー性被膜下リム、複数結節などが鑑別の助けになる一方、癌腫では単一腫瘤が多いと報告されています。 ただし、超音波検査だけで確定診断はできないため、必要に応じて細胞診やCT検査を組み合わせます。

胸部画像検査

腎癌が疑われる場合、肺転移の有無は治療方針と予後に大きく関わります。胸部レントゲン検査またはCT検査で、肺や胸腔内リンパ節を評価します。

転移が明らかな場合、片側腎摘出だけで根治を目指すことは難しくなります。その場合は、痛みや食欲、腎機能を支える治療を優先するか、腫瘍の種類に応じた全身治療を検討します。

超音波ガイド下FNA細胞診

FNA細胞診は、細い針を腎臓病変に刺して細胞を採取し、顕微鏡で確認する検査です。リンパ腫では細胞診で診断に近づけることが多く、腎癌や炎症性疾患との鑑別に役立ちます。

猫の腎臓FNAに関する研究では、96検体のうち診断可能率は68%で、確認症例に限ると腫瘍検出に有用であったと報告されています。 もちろん、FNAには出血、疼痛、診断不能、採取部位によるばらつきなどの限界があります。それでも、腎癌なら手術、リンパ腫なら抗がん剤治療というように治療が大きく変わる場面では、FNA細胞診は重要な検査です。

組織検査

確定診断には、組織検査が最も重要です。手術で腎臓を摘出した場合、病理検査によって腫瘍の種類、悪性度、血管浸潤、切除状態などを評価します。腎細胞癌では、組織型や悪性度によって再発・転移リスクの推定に役立ちます。

ただし、腎臓の組織生検はFNAより侵襲が高く、出血リスクも考慮する必要があります。全身状態、凝固機能、腫瘤の位置、治療方針への影響を考えたうえで実施を判断します。

治療方法

治療は「腫瘍の種類」で大きく変わります

猫の腎臓腫瘍では、最初から一つの治療に決めるのではなく、腫瘍の種類、転移の有無、反対側腎臓の機能、猫の年齢、全身状態、生活の質、飼い主様の希望を総合して治療方針を決めます。

状況主な治療方針判断のポイント
片側性腎癌が疑われ、転移がなく、反対腎が機能している片側腎摘出を検討します。根治または長期管理を目指せる可能性があります。
腎リンパ腫が疑われる、または診断された多剤併用化学療法を検討します。手術ではなく全身治療が中心です。
転移がある、血管浸潤が強い、全身状態が悪い緩和治療を中心に検討します。苦痛を減らし、生活の質を守ることを重視します。
感染や膿瘍が疑われる抗菌薬、尿培養、排膿などを検討します。腫瘍と誤診しないことが重要です。
慢性腎臓病が進んでいる腎臓病管理と腫瘍治療のバランスを取ります。手術や抗がん剤の負担を慎重に評価します。

片側腎摘出

片側腎摘出は、腫瘍のある腎臓を外科的に摘出する治療です。片側に限局した腎癌で、転移がなく、反対側の腎臓が十分に働いている場合に検討されます。

腎摘出の目的は、腫瘍を体内から取り除くことです。腫瘍が完全に切除でき、転移がなければ、長期生存が期待できる場合があります。一方で、高齢猫では麻酔リスク、術後の腎機能低下、食欲低下、疼痛、脱水、感染、血栓、出血などのリスクを丁寧に評価する必要があります。

健康な猫の腎提供ドナー141例を対象にした研究では、片側腎摘出の周術期死亡はなく、長期追跡例の84%で関連する長期影響は認められませんでしたが、7%で腎不全または尿路疾患による死亡・腎機能問題が報告されています。 これは健康な若い猫のデータであり、高齢の腫瘍症例にそのまま当てはめることはできませんが、術前評価を慎重に行えば片側腎摘出が選択肢になり得ることを示しています。

抗がん剤治療

腎リンパ腫の場合、治療の中心は抗がん剤治療です。COP系またはCHOP系と呼ばれる多剤併用療法が検討されることがあります。リンパ腫では腎臓だけでなく全身に病変がある可能性があるため、外科的に片側腎臓を摘出しても病気全体を制御できないことがあります。

2025年の腎リンパ腫の研究では、治療後中央値33日で24猫中21猫に臨床的利益があり、腎腫大、被膜下リム、結節・腫瘤、高窒素血症が改善した例が報告されています。 これは、腎リンパ腫では抗がん剤治療によって腎臓の画像所見や腎機能が改善する可能性があることを示しています。

緩和治療

すべての猫で積極的な手術や抗がん剤治療が最善とは限りません。転移が広がっている場合、重度の腎不全がある場合、食欲が著しく低下している場合、麻酔リスクが高い場合、飼い主様が侵襲の強い治療を望まない場合には、緩和治療を中心に考えます。

緩和治療は「何もしない」ことではありません。痛み、吐き気、脱水、食欲低下、貧血、高血圧、便秘、口内炎、腎不全による不快感などを丁寧に管理し、猫ができるだけ穏やかに過ごせる時間を増やす治療です。

緩和治療の内容目的
皮下点滴脱水や腎不全による不快感を軽減します。
制吐薬・胃腸薬吐き気を抑え、食欲を保ちます。
食欲増進薬食事量と体重維持を助けます。
鎮痛薬腫瘍や炎症による痛みを軽減します。
降圧薬腎疾患に伴う高血圧を管理します。
腎臓療法食・リン吸着薬慢性腎臓病を併発している場合に腎負担を減らします。
定期的な血液検査・尿検査治療の効果と負担を確認します。

予後:猫の腎臓腫瘍はどのくらい生きられるのか

予後は病名だけでは決まりません

「猫の腎臓腫瘍の余命はどのくらいですか」という質問は非常に多いですが、予後は一つの数字で簡単に説明できません。腫瘍の種類、転移の有無、腫瘍の大きさ、血管浸潤、反対腎の機能、年齢、食欲、体重、貧血、腎数値、治療への反応によって大きく変わります。

同じ「腎臓腫瘍」でも、片側に限局した腎癌で手術ができる猫と、全身性リンパ腫で腎不全が進んでいる猫では、治療方針も予後も異なります。大切なのは、検査によって現在の状況を整理し、その猫にとって最も納得できる治療目標を設定することです。

腎癌で腎摘出を行った場合の予後

腎癌で片側腎摘出を行った猫36例の研究では、手術時点で転移が疑われた猫が22.2%おり、退院まで生存した猫は77.8%でした。全症例を含めた生存期間中央値は203日でしたが、退院まで生存した猫に限ると生存期間中央値は1217日で、1年・2年・3年生存率はいずれも40.4%でした。

この結果から、腎癌の手術は決して軽い治療ではない一方で、手術を乗り越え、転移がなく、反対腎機能が保たれている猫では年単位の生存が期待できる場合があると考えられます。

また、2024年には左腎の腎細胞癌に対して腎摘出を行い、追加治療なしで4500日を超えて生存した猫の症例も報告されています。 これは特殊な良好例であり、すべての猫に同じ経過が期待できるわけではありませんが、孤立性で完全切除可能な腎癌では長期生存の可能性があることを示しています。

腎リンパ腫の予後

腎リンパ腫の予後は、治療への反応に大きく左右されます。抗がん剤治療に反応し、食欲や腎機能が改善する猫では、生活の質を保ちながら治療を続けられることがあります。一方で、治療反応が乏しい場合、重度の腎不全がある場合、FeLV陽性、骨髄病変や中枢神経病変がある場合、全身状態が悪い場合には予後は慎重になります。

リンパ腫は一度良くなっても再発することがあるため、治療中だけでなく、治療後の定期検査が重要です。食欲、体重、腎数値、画像所見を追いながら、治療強度を調整します。

高齢猫で予後を考えるときのポイント

14歳以上の猫では、腫瘍だけでなく慢性腎臓病、甲状腺機能亢進症、心疾患、関節炎、歯科疾患などを併発していることが少なくありません。そのため、治療方針を決める際には「腫瘍を攻める」だけでなく、「治療後に食べられるか」「痛みを抑えられるか」「通院や投薬が猫の負担になりすぎないか」「飼い主様が自宅で継続できるか」を合わせて考えます。

予後に関わる項目良い方向に働く条件注意が必要な条件
腫瘍の範囲片側に限局している両側性、転移、腹膜播種がある
腎機能反対側の腎臓が保たれている高窒素血症、尿比重低下、蛋白尿が強い
全身状態食欲があり、体重が保たれている体重減少、脱水、貧血、強い炎症がある
治療反応手術で完全切除、抗がん剤に反応再発、治療不応、合併症が多い
生活の質痛みや吐き気が管理できる苦痛が強く、食べられない状態が続く

イース動物病院で大切にしている診療方針

いきなり治療を決めるのではなく、まず病気の全体像を整理します

腎臓腫瘍が疑われる猫では、飼い主様の不安が大きいため、早く結論を出したくなることがあります。しかし、腎癌とリンパ腫では治療がまったく異なり、炎症や感染であれば抗菌薬治療が必要になります。

イース動物病院では、画像検査だけで「手術しましょう」「抗がん剤にしましょう」と決めるのではなく、血液検査、尿検査、血圧測定、腹部超音波検査、胸部画像検査、必要に応じたCT検査や細胞診を組み合わせ、病気の全体像を整理することを重視します。

治療のメリットと負担を具体的に説明します

高齢猫の腫瘍治療では、医学的に可能な治療が、必ずしもその猫にとって最善とは限りません。手術には腫瘍を取り除ける可能性がありますが、麻酔や術後腎機能のリスクがあります。抗がん剤治療には病気を抑える可能性がありますが、通院、検査、投薬、副作用管理が必要です。

そのため、当院では治療の選択肢を提示する際に、期待できる効果だけでなく、考えられるリスク、通院頻度、自宅で必要なケア、費用感、途中で方針を変更する可能性についても丁寧に説明することを大切にしています。

「積極治療」と「緩和治療」のどちらも大切な選択肢です

腎臓腫瘍では、片側腎摘出や抗がん剤治療を選ぶこともあれば、緩和治療を中心にすることもあります。どちらが正しい、どちらが間違いというものではありません。

大切なのは、猫の状態、病気の進行度、治療によって得られる可能性、治療の負担、飼い主様の考え方をすり合わせることです。積極治療を選ぶ場合も、緩和治療を選ぶ場合も、食欲、体重、痛み、吐き気、脱水、腎機能を丁寧に管理することが重要です。

受診をおすすめするタイミング

腎臓腫瘍が疑われたら早めにご相談ください

腎臓腫瘍は、治療方針を決めるまでに確認すべき項目が多い病気です。特に、腎癌で手術が選択肢になるかどうかは、転移の有無や反対腎機能によって変わります。リンパ腫であれば、診断後できるだけ早く全身状態を整え、抗がん剤治療の適応を検討する必要があります。

以下のような場合には、早めの受診をおすすめします。

受診をおすすめするサイン理由
食欲が落ちている腎機能低下、腫瘍、吐き気、痛みの可能性があります。
体重が減っている腫瘍性疾患の重要なサインです。
水を飲む量や尿量が増えた腎機能低下や内分泌疾患を確認する必要があります。
嘔吐が増えた腎不全、消化器疾患、腫瘍性疾患が関係することがあります。
血尿がある腎臓、尿管、膀胱の病気を調べる必要があります。
お腹にしこりを感じる腎臓や腹腔内臓器の腫大の可能性があります。
他院で腎臓に腫瘤と言われた追加検査と治療方針の整理が必要です。

定期検査で見つかった場合も放置しないことが大切です

症状がない場合でも、腎臓に腫瘤が見つかった場合は経過観察だけでよいか、追加検査が必要かを判断する必要があります。腫瘤の大きさ、増大速度、血流、腎機能、尿検査の異常、リンパ節や他臓器病変の有無によって方針は変わります。

「元気だから大丈夫」と判断してしまうと、手術や抗がん剤治療が選べる時期を逃してしまうことがあります。一方で、すべての腫瘤にすぐ大きな治療が必要なわけでもありません。だからこそ、現時点の状態を整理し、次に何を確認すべきかを明確にすることが重要です。

よくある質問

猫の腎臓腫瘍は治りますか

腫瘍の種類と進行度によって異なります。片側に限局した腎癌で、転移がなく、反対側の腎臓が十分に働いている場合には、片側腎摘出によって長期生存が期待できることがあります。 一方、リンパ腫では完全に手術で取り除く病気ではなく、抗がん剤治療で病気を抑えることを目指します。

片方の腎臓を取っても生きていけますか

反対側の腎臓が十分に機能していれば、片方の腎臓を摘出しても生活できる可能性があります。 ただし、高齢猫では慢性腎臓病が隠れていることがあるため、血液検査、尿検査、血圧、画像検査を総合して慎重に判断します。

腎臓腫瘍はエコーだけで診断できますか

超音波検査は非常に重要ですが、エコーだけで腎癌、リンパ腫、炎症、転移性腫瘍を完全に区別することはできません。必要に応じて、血液検査、尿検査、胸部画像、FNA細胞診、組織検査を組み合わせます。

高齢猫でも手術できますか

年齢だけで手術の可否は決まりません。14歳以上でも、全身状態が安定し、心臓や腎機能、血圧、貧血、転移の有無を評価したうえで、手術が選択肢になることがあります。ただし、手術で得られる利益と負担を慎重に比較する必要があります。

抗がん剤は猫にとってつらい治療ですか

猫の抗がん剤治療は、人のがん治療のように強い副作用を許容してがんを攻めるというより、生活の質を保ちながら病気を抑えることを目標にすることが多いです。ただし、食欲低下、嘔吐、下痢、白血球減少などの副作用が起こる可能性はあるため、定期的な検査と副作用管理が必要です。

まとめ:猫の片側腎臓腫瘍では「何の病気か」を見極めることが重要です

猫の腎臓に腫瘍やしこりが見つかった場合、最も大切なのは、腎癌なのか、腎リンパ腫なのか、転移性腫瘍なのか、炎症や嚢胞などの非腫瘍性病変なのかを見極めることです。病名によって、手術が適しているのか、抗がん剤治療が適しているのか、緩和治療を優先すべきなのかが大きく変わります。

片側に限局した腎癌で、転移がなく、反対側の腎臓が保たれている場合には、片側腎摘出によって長期生存が期待できることがあります。一方、腎リンパ腫では抗がん剤治療が中心となり、治療に反応すれば腎臓の腫れや腎機能が改善する場合があります。

イース動物病院では、検査結果、年齢、全身状態、生活の質、飼い主様のご希望を踏まえ、猫にとって負担と利益のバランスが取れた治療方針をご提案します。猫の腎臓に腫瘍があると言われた場合、または食欲低下、体重減少、多飲多尿、嘔吐、血尿などが気になる場合は、早めにご相談ください。

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