犬の皮膚病:毛包虫症(ニキビダニ)とは

犬の皮膚に寄生するニキビダニ(Demodex spp.)が原因で引き起こされる皮膚病です。主に若齢犬に発症しやすいですが、成犬や老犬でも免疫力が低下した際に発症することがあります。ニキビダニは、ほとんどの健康な犬の皮膚にも常在しており、通常は問題を引き起こしませんが、免疫システムが弱まると異常に増殖し、症状を引き起こすことがあります。なので一般的には痒みはそれほど強くありませんが皮膚の状態や二次感染の有無によっては痒みが生じることがあります。

以下に特徴、診断、治療、予後についてお伝えします

ニキビダニの種類と特徴

犬のニキビダニには、主に以下の3種類が知られています。

1. Demodex canis

   最も一般的な種で、毛包や皮脂腺に寄生します。このダニが異常増殖すると、毛包虫症を引き起こし、脱毛や皮膚の炎症が見られます。

2. Demodex injai

   皮脂腺に主に寄生し、脂漏性皮膚炎の原因となることがあります。このダニは、特に長毛種の犬でよく見られます。

3. Demodex cornei

   より浅い皮膚層に寄生し、皮膚の鱗屑や炎症を引き起こします。比較的稀な種類です。

毛包虫症の症状

毛包虫症の症状は、ダニの寄生数や犬の免疫応答によって異なります。症状は局所性と全身性に分けられます。

▪️局所性毛包虫症

  局所的な脱毛が主な症状で、通常は顔や前肢に見られます。軽度の場合は、自然治癒することが多いです。

▪️全身性毛包虫症

  複数箇所にわたる脱毛、皮膚の紅斑、膿疱、鱗屑、色素沈着などが見られ、重症の場合は二次感染や全身の炎症を引き起こすことがあります。この状態は治療が必要であり、放置すると命に関わることもあります。

診断

毛包虫症の診断は、皮膚の掻爬検査によって行われます。皮膚を削り取り、顕微鏡でダニの存在を確認します。また、症状が全身性の場合は、二次感染の有無や免疫不全の可能性を確認するための追加検査が行われることもあります。

治療

治療法は、症状の重症度と広がりに応じて異なります。局所性の場合は、抗ダニ薬や抗生物質を含む外用薬が使用されることが多く、全身性の場合は、ミルベマイシン、アフェロメクチン、イソキサゾリン系薬剤(例: サロラネル、フルララネル)などの全身投与薬が使用されます。また、二次感染がある場合には、抗生物質の投与が必要になることもあります。治療は長期間にわたることが多く、定期的な検査でダニの数を確認しながら進める必要があります。

予後と管理

多くの犬は適切な治療を受けることで回復しますが、免疫不全や基礎疾患が原因の場合は、再発することがあります。そのため、治療後も定期的な皮膚検査や、免疫機能の管理が重要です。

ちなみに人のニキビダニ症は

人にもニキビダニ(Demodex folliculorum、Demodex brevis)が存在しますが、これらは犬とは異なる種類です。通常、ニキビダニは人の顔の毛包や皮脂腺に寄生しており、無害であることが多いですが、免疫力が低下した場合や皮脂の分泌が過剰な場合に、酒さ(rosacea)などの皮膚疾患を引き起こすことがあります。特に中高年の女性に多く見られる傾向があります。

犬と同様に、人の場合もニキビダニが原因の皮膚疾患は抗ダニ薬や抗生物質を用いて治療されますが、犬から人へ直接感染することはありません。それぞれの種に特異的なダニが寄生するため、犬の毛包虫症が人に移ることはありません。

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