口の中にできもの!?どうしたらいい?
はじめに
こんにちは。イース動物病院です。
今日はお口の中のできもの(=口腔内腫瘍)についてお話させて頂きます。
口腔内腫瘍の鑑別疾患は割と少ない!
犬猫の口の中のできものには炎症性のものと腫瘍性のものがあります。さらに腫瘍性のものは良性腫瘍と悪性腫瘍があります。
お口の中のできものを見つけた時、我々は以下の鑑別診断を想定します。
- 炎症性エプリス
- 腫瘍性エプリス(線維腫、棘細胞性エナメル上皮腫)
- 悪性腫瘍(犬:メラノーマ、扁平上皮癌、線維肉腫、猫:扁平上皮癌、線維肉腫、独立円形細胞腫瘍)
※エプリスとは、歯肉・歯根膜・歯槽骨・骨膜などの結合組織から派生した良性の限局性腫瘤に対する臨床的名称
当然ではありますが、その後がどういう転帰をたどるかはその診断により異なるため、まずは診断を確定する事を目指します。年齢・飼い主様の生命観などにより状況が変わりますが、この時点では悪性腫瘍である事も想定して、全身の状態(遠隔転移、リンパ節転移、麻酔をかける事を想定して基礎疾患の有無)も精査します。
口腔内腫瘍は見た目も特徴的
実は、口腔内腫瘍は見た目からでもある程度予測する事ができます。
もちろん、判断するには細胞診や組織生検は必須です。
ですが、ある程度結果を想定する事はその後のプランを構想する上で心のモチベーションになります。その上で肉眼病変は大切な情報となります。
例えば…
口腔メラノーマ
黒色のできもの(33%は黒くない)様々な形状
扁平上皮癌
赤色カリフラワー状
棘細胞性エナメル上皮腫
赤色カリフラワー状、歯の周囲に形成、口先側に好発
線維腫(線維腫性エプリス)
円形で平滑
もちろん例外はありますが、できものの種類により、その見た目もある程度異なります。
これらの情報も考慮して、飼い主様への説明、その後の検査、予後予測、治療法をプランニングします。
検査手順
ここまでは前置きでしたが、具体的にどのような検査を進めるかをお話します。
検査手順
- とりあえず刺す(細胞診)
- 転移の可能性も含め全身状態の把握(レントゲン検査、エコー検査、血液検査)
- 病理生検目的も含め、拡大切除or部分切除
①とりあえず刺す
細い針をできものに刺して、その中に含まれている細胞を顕微鏡で確認する検査です。できもの自体には神経が行き届いていない事がほとんどなので、直接的な痛みは最小限の検査です。
できものの種類によってはこの時点で確定診断ができる場合もあります。ベッドサイド(かかりつけ病院内で)確定しやすい腫瘍としてはメラノーマ、扁平上皮癌、独立円形細胞腫瘍です。一方で棘細胞性エナメル上皮腫、線維腫、炎症性エプリスなどは細胞数が取りづらい・腫瘍性が含まれているのに炎症像が主体となるなどの特徴から、確定診断までできず病理生検に頼る事が多いです。
②転移の可能性も含め全身状態の把握(レントゲン検査、エコー検査、血液検査)
細胞診で悪性腫瘍と確定した場合は必須ですが、確定しなかった場合でも全身状態の把握は重要となります。
後半でお話しますが、良性悪性問わず口腔内のできものは切除する事に大きなメリットがあります。
しかし、その場合は全身麻酔が必須となり、麻酔リスクを評価する上で全身検査は必要となります。
また、全身検査をする事で思わぬ病気と遭遇する機会もあります。麻酔には影響しなくとも、その後にケアしないと悪い状況を生む可能性のある病気が見つかる事が多々あります。
③病理生検も含め、拡大切除 or 部分切除
①と②の検査で、悪性腫瘍と判断された場合、根治を目指せる腫瘍の場合はそれにあった手術プランの提案をまず行います。
もちろん、飼い主様の生命観、患者の年齢、全身状態を協議の上で治療・緩和プランは決定しますが…根治を目指す場合には、基本的に拡大切除となります。
具体的には顎を骨ごと全切除、マージン(腫瘍がどこまで浸潤しているかの想定範囲)を確保した顎骨の部分切除、場所によっては近くのリンパ節を含めた拡大切除などを考慮します。
ちょっとやりすぎかと思われるかもしれませんが、根治を目指す腫瘍外科の原則として、取り残し自体が最も患者を不幸にさせる要因だからです。
部分切除が適応となる条件としては、細胞診では判断が困難だった場合、年齢や全身状態により長時間の麻酔管理が望めない場合、飼い主様の生命観や患者の生活の質を主体と考えた場合、予後不良の状況で患者の生活の質を重視した場合 などになります。
その他の要因として、担当獣医師の執刀技術の限界、技量はあるものの設備や人員が整っていないなどの要素も考慮されます。これらの事を考えている動物病院の場合は、他の設備が整っている病院への紹介や治療費が高くなる可能性はあるものの専門医の招集などの提案がされるかと思います。
口のできものを切除するメリット
ここまで、獣医師が口の中のできものを見つけた時、何を想定しているか・具体的な検査手順などをお話してきましたが、良性であれば別にそこまでやる事なくない?と思われた方もいるかと思います。
悪性腫瘍であれば腫瘍そのものの除去、進行の抑制、再発の抑制といった効果が期待できます。しかし、良性であれば、極論、直接的に亡くなる事はありません。しかし、”できものがある事自体”が患者の生活の質を低下させる事があります。
口のできものを切除する最大の目的。それは”症状の緩和”です。
良性病変だろうと悪性病変だろうと口腔内腫瘍は痛みや痒みや出血や悪臭や、顎の可動性の制限などから、それに伴う食欲不振を引き起こします。食べたくても食べられない状況…皆さんはどう思いますか?
喉奥の腫瘍の場合には、口に入れても呑み込めない、気管への誤嚥などのリスクも伴います。つらいですよね…それを緩和する事が最大の目的です。
悪性腫瘍の場合、残念ながら長期的な予後が望めない場合はあります。
ただ、そのような中でも、最期を迎えるギリギリまで生きている喜びを与えたい、大切な家族として何とかしてあげたいと思うのが飼い主である皆さんの気持ちかと思います。
こういった事が叶えられない状況というのは生きていると言えるのでしょうか?
良性腫瘍だとしても痛みや痒みや出血から、ご飯を上手く食べられない状況にはなります。ご飯をちゃんと食べられない状況=大切なワンちゃんネコちゃんの生活の質が低下する→最悪栄養失調で亡くなってしまう…
口のできものの種類に問わず、取り除いてあげる事自体は、少なくとも、生活の質=生きていてほしいという願いになります。
根治できるものと根治できないものはありますが、多くの獣医師が願っている事は”大切な家族(=犬猫)が亡くなるギリギリまで家族としてちゃんと生きられる事。”
であると思っております。それを手助けする事が動物病院であり、動物の幸福を介した社会貢献であると願っております。
まとめ
ここまで、いろいろと難しい話をしてきましたが、”口の中のできもの”を見つけた時、私(福長)が常日頃から思っている事・願っている事を今回ブログとして書かせて頂きました。
私が動物医療で大切にしている事、それはあくまで“患者の生活の質”です。
それを叶えるためには、“より正確な診断”が前提条件と考えています。
治療を行えるかどうかは飼い主様の生命観・経済状況・患者の状態・設備や獣医師や獣医療の限界に依存していきます。
ただ、原因が分からなければこれら選択肢すら提示する事ができません。
病気や生活習慣において、「元気ないのは年だからしょうがないよね」とか「飼い主が甘やかして太らせたのだ」と決めつける前に、
「本当にそれは年齢のせいか」や「太ったのは本当に飼い主側の責任か?病気と言う事はないか?」と疑いその可能性を1つずつ除外していく…
私自身はアドバイザーとなるものの、今後もイース動物病院ではそんな原因究明=救命を大切に、動物医療を提供していきます。
今後ともどうかよろしくお願い致します。
8月31日
イース動物病院
医長 福長誉之