🦷知らないと怖い!犬猫の「吸収病巣」と健康診断の大切さ
こんにちは。東京都大田区大森のイース動物病院です。
今回は、犬や猫の歯に起こる「吸収病巣(きゅうしゅうびょうそう)」という病気についてお話しします。
聞き慣れない名前ですが、実は歯が溶けてしまう非常に怖い病気。
しかも、見た目では気づきにくく、健康診断で偶然見つかることも少なくありません。
🦷吸収病巣とは?
「吸収病巣」とは、歯の表面や内部が溶けていく病変のことを指します。
正式には「歯の吸収病巣(tooth resorption)」と呼ばれ、猫では特に多く見られます。犬でも発生しますが、猫ほど頻度は高くありません。
歯は、外側から「エナメル質」「象牙質」「歯髄(しずい)」という層構造でできています。
吸収病巣では、体の中の細胞が誤って自分の歯の組織を溶かしてしまうため、次第に歯が崩れていくのです。
🐱猫に特に多い理由
猫の吸収病巣は、中高齢猫の約5〜7割で見られるといわれています。
原因ははっきり分かっていませんが、以下のような要因が関係していると考えられています。
- 慢性的な歯周炎(歯ぐきの炎症)
- 歯の外傷やかみ合わせの異常
- 遺伝的な要素
- カルシウム代謝の異常
つまり、日頃の歯磨きや歯石の蓄積などの**「口腔ケア不足」も関与している可能性**があります。
😿症状はとても分かりづらい!
飼い主さんが気づく症状は、実はとても少ないのが特徴です。
軽度のうちは見た目ではまったくわかりません。
症状が進行してくると、次のような変化が見られることがあります。
- ごはんを食べにくそうにする
- 片側だけで噛む
- 食べるときに口を気にする
- よだれが増える
- 歯肉が赤く腫れている
ただし、これらのサインが出る頃にはすでに歯がかなり溶けていることが多いのです。
そのため、レントゲン検査(歯科X線)での確認が非常に重要になります。
🩻実際の吸収病巣の症例
【写真:実際に抜歯した歯の写真】

このように、肉眼では「歯が少し赤いだけ」と見えることもありますが、実際には歯の内部が完全に崩壊しているケースもあります。
【写真:吸収病巣の歯のレントゲン画像】

こちらは猫ちゃんの吸収病巣のレントゲン画像です。
一見、表面はきれいに見えても、レントゲンで見ると歯の根がぼろぼろに溶けているのがわかります。
このように、肉眼では「歯が少し赤いだけ」と見えることもありますが、実際には歯の内部が完全に崩壊しているケースもあります。
⚠️治療は「抜歯」が基本
吸収病巣は一度始まると止められません。
人の虫歯のように削って詰めても再発してしまうため、根本的な治療は「抜歯」しかありません。
病変が軽度で、歯の表面の一部だけが吸収されている場合は経過観察することもありますが、
痛みを伴うことが多く、ほとんどのケースで抜歯が必要になります。
また、吸収病巣のある歯は歯根が変形していることが多く、通常の抜歯よりも難易度が高いです。
そのため、歯科に詳しい獣医師による処置が望まれます。
🦷なぜ健康診断が大切なのか
吸収病巣は見た目で気づけないことが最大の問題です。
しかも進行がゆっくりで、ある日突然痛みが強くなることもあります。
健康診断の際に、以下のような検査を受けておくことが重要です。
1️⃣ 口腔内の視診
歯肉の色や歯の形、赤み、出血などをチェック。
初期の吸収病巣は、歯の根元が「ピンク色」に見えることもあります。
2️⃣ 歯科用レントゲン検査
肉眼では見えない歯根の部分の吸収病変を発見できます。
レントゲンでしか分からないケースがほとんどです。
3️⃣ 歯石除去・スケーリング時のチェック
麻酔下でスケーリングを行う際、同時に口腔内全体を精査します。
これにより、隠れた吸収病巣を見逃さずに済みます。
🧠放置するとどうなるの?
放置すると、吸収病巣は次第に拡大して歯の神経まで溶け出し、強い痛みを伴うようになります。
その結果、以下のような問題が起こります。
- 食事を拒否する
- 口を触ると怒る
- 口臭が強くなる
- 顎の骨に炎症が波及する
- 他の歯にも病変が広がる
痛みが慢性的になると、猫は「痛い顔」をしません。
そのため、「年だから食が細くなった」と勘違いされるケースも少なくありません。
🩺健康診断で早期発見を!
当院でも、健康診断で偶然見つかる吸収病巣が非常に多いです。
特にシニア期(7歳以上)では、年に1回ではなく、半年に1回の口腔チェックをおすすめします。
健康診断の際にレントゲンを撮ることで、まだ痛みのない初期段階で病変を見つけることができ、
早めに抜歯を行えば、大きな痛みや食事トラブルを未然に防ぐことができます。
🏥まとめ
犬や猫の吸収病巣は、**見えない場所で進行する「沈黙の歯の病気」**です。
痛みを我慢している子も多く、発見が遅れると食べること自体が苦痛になってしまいます。
定期的な健康診断でレントゲン検査を行うことで、
早期発見・早期治療が可能になり、歯の痛みや不快感からペットを守ることができます。
🐾飼い主さんへのお願い
- 7歳を過ぎたら、半年に1回の健診を
- 歯の根元が赤く見える、食欲が落ちたら要注意
- 定期的なスケーリングとレントゲンでチェック
🦷「うちの子は歯がきれいだから大丈夫」
そう思っていても、実は見えない部分で歯が溶けているかもしれません。
ぜひ一度、健康診断でお口の中をチェックしてあげてください。
早期発見が、痛みのない生活への第一歩です。
また、イース動物病院では、歯科専門外来を行っております。お気軽にお問い合わせください。